不治と自然と景観と
「あ、キャンプお疲れ〜!」
僕が病室に入ると汐温はベッドに座っていた。何してるのか聞こうと思ったけど、汐温は謎の行動をしているときが多いから今回も意味なんてないんだろうなと思ってスルーした。
「それでそれで、今回はどうだった?」
テントも張れないのに一人で来てるのを家族連れに笑われた話や、夜に歩き回った挙げ句、1時間軽く遭難した話をすると、いつもみたいにゲラゲラ笑って聞いてくれた。こうしている間は病気じゃないみたいなのに、今も病状は進行しているのかと思うと胸が痛くなる。圧迫されるような、そんな感じ。
「やっぱり初キャンプはソロで行くもんじゃないね〜」
「当たり前だろ!」
「ごめんごめん、行ってみたかったんだよ。あ、データちょうだい?」
そう言われて差し出された手にデータを渡す。そこで触れた手はあり得ないぐらい冷たかった。急に現実を突きつけられて、嫌になる。ずっと夢見心地でいたいのに。
「そういえば、学校どうなの?」
「別に普通だよ」
「何も聞かずに恋人とか私言っちゃってるけど、彼女いなかった?」
「いないよ、友達すら一人いるかいないか」
そう言うと、何がおかしいのか足をバタバタさせて笑っている。
「見た目通りだね!」
風評被害だ!酷い!
「わからないだろ!大人しい奴にも以外と彼女いたりするんだぞ!」
「彼方君は大人しいじゃなくて陰キャなだけでしょ!」
汐温が自分で言って自分で笑っている。ぐうの音も出ない。汐温が病気じゃなかったらグーが出ていた。
「良かったね!そんな彼方君にもこんなに可愛い彼女が出来たじゃん!」
「否定はしないけど、恋愛感情は別に関わってないのに彼女でいいのか?」
「彼女って別に恋愛感情なくてもいいと思うんだよ、私。恋人ってことの方が楽しいなら恋人で良くない?だから私は彼方君の彼女でいいよ」
ほら〜、学校で自慢しなよ!と茶化してくる。
「じゃあ、写真とっていい?」
「あ、それは却下で」
即答。そして、黙ってVRゴーグルをつけだした。こいつ、逃げたな。
「私、写真嫌いなの。生きた証拠みたいで。魂が残り続けるみたいで。皆に忘れられたいんだ、私のこと」
そういえば生前、母も似たようなことを言っていた。だから母の写真はほとんど残っていない。
「汐温って、携帯持ってんの?」
ふと、思いついたことがある。忘れそうだけど、汐温は何だかんだ一人で寂しそうだから。
「持ってるよ」
「連絡先、交換しようぜ」
そう言うと、VRゴーグルを外して今日一番の笑顔で携帯を出してきた。
「私さ私さ、連絡先のところに一人も名前なかったんだよ!高校から携帯持たせてもらったんだけど、高校入ってすぐに入院したから誰とも交換出来てなかったんだ!」
嬉しそうだし早速交換した。するとすぐに汐温からメッセージが来た。
➝彼女からの初ライン、お気持ちをどうぞ
白い目で汐温を見ると、ニヤニヤしながら、何が楽しいのかワクワクするような目で見てくる。
➝別にどうもないよ、ただのメッセージだろ
➝照れてるし笑
「おい、ブロックするぞ」
「ごめんごめん、からかいたくなるんだよ」
汐温が笑っているし、まぁいいかという気分半分、病気じゃなかったらやはり小突いていたという気分半分。
「そういえば、さ、今日来たとき暗そうだったけど、なんかあったの?」
さっきとは裏腹に少し心配そうに聞いてくる。
「なんにもないよ、父親とちょっと揉めただけ」
「家族は大事にしなよ」
そういう汐温の顔は寂しそうだった。そういえば、汐温の家族を見たことがない。もう何回かここに来ているけど、影も形もない。「誰もここに来ない」というのは本当らしい。
「わかったよ」
そう言うと、ノートを出してきて、携帯に何かを打ち込みだした。それと同時に、僕の携帯が鳴った。
「ねぇ、次のデート場所、また指定していい?」
「いいよ」
僕は、今更改まって言う汐温の言い方のに違和感を感じた。でも、汐温が言うことは絶対で、逃げられない。
「おうちデートしたい」
なんだか嫌な予感は、言われる前からしていた。今度こそは本当に嫌だった。
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