第11話 スライム相手に覚醒スキルを試運転


「じと~……」


「うわっ!? ユウキ、いつからそこに!?」



 早朝の酒場兼食堂にして、柱の陰に隠れていたユウキが鋭い視線をオレに向けてくる。



「また鼻の下を伸ばしてる。ロイスの悪い癖だよ。さっきのも夜のお誘い?」


「誘われたけど断ったよ。今はユウキのことで頭がいっぱいだからな」


「そ、そうなんだ。ふ~ん……じゃあいいか」



 ユウキは何を納得したのかわからないが、満足げに頷いて柱の陰から出てきた。


 ユウキの服装はいつものチュニック姿だ。

 魔女の衣装は具現化させるだけでも魔力を消費するらしく、普段は隠しているのだという。

 ただ金色の髪は長く伸ばしたままなので、以前と比べて女性らしさがかなり強調されていた。

 意識して観察すると、いつもより胸の部分が膨らんで見えるような……。



「な、なに? ジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」


「そうやって髪を伸ばしてると印象が変わるなと思って」


「可愛い?」


「どちらかと言うと綺麗だな。ユウキは目鼻立ちもいいから美人の部類に入る」


「あ、う、うん。そっか。ありがと……」



 オレが素直に感想を述べるとユウキは照れたように頬を赤らめた。



「ロイスって歯の浮くようなこと平気で言うよね」


「そうか?」


「ベッドの中だと恥ずかしがるのに。攻めるのはいいけど攻められると弱いのかな? 騎士としてそれはどうなの?」


「う、うるさい」


「ふふふっ。照れてる照れてる」



 正体を明かしたことでオープンになったのか、ユウキは楽しそうに微笑んでいた。

 オレがそばにいることでこの笑顔を見られるなら、それだけで報酬としては十分だ。



 ◇◇◇◇



 朝食を食べ終えたあと、オレたちは酒場を後にした。

 冒険者ギルドに立ち寄り、ブロンズランクの依頼掲示板に貼られていたクエストを請け負う。



「目覚めたばかりで悪いがユウキの力を見せてくれ。戦闘で生き残るためにもパーティーの実力を把握するのは大事だ」


「了解。ボクも体がなまってたからね。準備運動をしたかったところだ」



 そうしてオレとユウキは馬車で数時間をかけて、小高い丘の上に向かった。


 表向きはパラディンであるオレは青い甲冑とマントに身を包み、腰にはブロードソードを携えている。

 守りの要である聖騎士の盾はいつでも出せるように背負っていた。



「この辺りでスライムが無限に湧き出てくるらしい。一匹一匹はザコだが何ぶん数が多い。労力の割に報酬が見合わないからとクエストが放置されていたようだ」


「人知れずスキルを試すにはもってこいってわけだね」


「そうだ。人里離れているから力も使い放題。敵は無限湧きするから遠慮もいらない。クエストをクリアすれば金も入って冒険者ランクも上げられる。一石三鳥だな」



 そうこうしていると草陰から緑色をした丸餅のような軟体生物の魔物――スライムが姿を現した。

 オレは聖騎士の盾を装備して、ユウキに声をかける。



「さっそくお出ましだ。オレが周囲を警戒しておくから、ユウキはスライム狩りに集中するんだ」


「了解。ぱぱっとやっつけちゃうよ」



 ユウキは頷くと、手にしていたメイスに魔法スキルをかけた。



「【アイスエンチャント】」



 ユウキは氷属性の魔法をメイスに付与させると。



「うりゃ!」



 可愛いかけ声と共にメイスを振りかぶり、スライムを叩く。

 凍気をまとったメイスで叩かれ、スライムは一瞬で凍結。砕け散った。



「見たか!」


「スライム相手じゃ練習にもならないか」


「ぶーぶー。反応がうす~い。昔のボクはスライム一匹相手するのも大変だったんだぞ。彼女の成長を褒めろよ~」


「彼女って……」



 ユウキのヤツ、隙あれば恋人アピールしてくるな。可愛いからいいけど。


 以前のユウキは万年レベル1のプリーストで、能力値もドベで覚えてたスキルも少なかった。

 だから無能だと後ろ指を差されて、パーティーからの追放が決まったのだ。



「どうして以前はレベルが1のままだったんだ?」


「ボクの本来の職業クラスはダークプリーストだからね。覚醒するまで偽のクラスであるプリーストレベルは上がらなかったの」


「それでいくらモンスターを倒しても経験値が入らなかったのか」


「これも死印にまつわる呪いのひとつさ。けど、覚醒すれば経験値は通常どおり入るよ。デュラハンになったキミも同じだから安心して」


「なら、スキルも覚えられるんだな」


「うん。スキルを使えば使うほど熟練度が上がって、より高度で威力の強いスキルを覚えていくよ」



 一般的なスキルは、戦闘や訓練の中で覚醒するものだ。

 それぞれのスキルには熟練度があり、バトルスタイルや稽古の内容で覚えるスキルも変わる。

 毎日斧で薪を割っていたら斧スキルのレベルが上がって【薪割り/初級】を覚える……みたいな感じだ。


 オレはパラディンになる前にファイターとして【剣技】スキルを上げ、転職後に【盾技】スキルを上げた。

 スキルには組み合わせによる連携やコンボ技もあり、オレが得意とする【攻防の構え】は【剣技】と【盾技】の複合スキルだった。



「とはいえ、ボクはすでに【属性付与】と【武具強化】は上級まで覚えている。だからこんなこともできる」



『スライムを一匹見たら10匹はいると思え』の格言どおり、ワラワラとスライムが集まってきた。

 ユウキは不敵に笑うとメイスを天高く掲げた。



「【クラブエンハンス】! かーらーのー【アイスエンチャント】重ねがけ!」



 ユウキは武具強化だけでなく、氷属性魔法付与をメイスにかけた。



「おお! 強化と属性付与の二重バフか!」



 武具にかけられるバフ効果は、普通なら一種類が限度だ。

 強化魔法をかけすぎると武具の方が耐えられなくなる。

 だから武具を壊さない程度に出力を制御しつつ、なおかつ的確な強化を施さなくてはならない。

 そんなバフ魔法を二種類以上かける多重強化は高度なテクニックなのだ。



「力は完全に戻ってないけど、今のボクでもこれくらいはできるよ」


「簡単に言うけど凄いことだぞ。二重バフを易々とやってのけるなんて。さすがはユウキだな。おまえのこと見直したぞ」


「えへへ。もっと褒めて褒めて♪」


「いよっ! 天才サポーター! ユウキちゃんかっこいいー!」


「えへへへっ。それほどでもあるけどーーーー!」



 ユウキはオレの声援を受けて満面の笑みを浮かべると。



「とりゃりゃーーー!」



 凍気をまとったメイスを振りかぶり、地面に叩き付ける!



 ――――バキバキバキバキ!



 叩き付けた場所から霜柱が広がり、凍結に巻き込まれたスライムの群れは一瞬にして氷漬けになった。



「ざっとこんなもんだね」


「本当にすごいな。こんな才能を隠し持っていたなんて」


「そ、そうかなっ」


「ああ。やっぱりユウキはやればできる子だった」



 オレは心の中で手の平をグリングリンと回転させて、無能だと追い出した過去の自分に平手打ちする。



「このまま戦闘を続けるぞ。おまえのことをもっと知りたい」


「うん。ボクのすべてを見せてあげる!」



 そうしてオレたちは無限に湧き出るスライムを相手に戦い続け――――



 ◇◇◇◇




「ぐぼ……っ!」


「ロイスーーー!」



 本当に無限発生したスライムに体を飲み込まれて、オレは為す術もなく窒息死した……。




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