第12話 【死因回避】でループ無双
――――話を30分前に戻そう。
「これでフィニッシュ!」
ユウキは二重に強化したメイスで無双して、合計で100匹のスライムを狩った。
「お疲れさん。今ので周囲にいたスライムは全滅したみたいだな。休憩しよう」
オレは座り心地のよい岩場にユウキを座らせたあと、水筒を手渡した。
ユウキは少しためらったあと水筒を受け取って、オレの隣に腰掛けた。
「この水、ロイスの飲みかけだよね」
「水は貴重だ。帰りの分も残しておかないといけない。回し飲みはイヤだったか?」
「全然っ。そうだよね。うん、水は大切にしないと」
よほど喉が渇いていたのだろう。
ユウキは勢いよく頭を横に振ると、水筒の中身をあおった。
「レベルとスキルは上がったかな」
休憩している間に、オレはユウキのステータスを見ることにした。
――――――――――――――――
【ユウキ・マリアドール】
●冒険者ランク:ブロンズ
●クラス:ダークプリースト(Lv19)
●能力値:【体力171】【反射285】【知覚228】【理知330】【幸運8】
●ユニークスキル:【死印付与】
●所持スキル:【ダークエンチャント】【闇の寵愛】【魔法属性付与/上級】【武具強化/上級】【回復魔法/上級】【感知魔法/上級】【棍棒術/初級】
――――――――――――――――
「職業レベルは上がってないな……」
さすがにレベル19ともなれば、スライムを100匹倒しても経験値があまり入らない。
レベル20代の冒険者が経験値を稼ぐとしたら、サーベルタイガーや大鷲などの中型モンスターだ。
他にも雑魚モンスターを統率するリーダーや、通常個体より力を増した上位種を狩ることで経験値は多めに入るのだが……。
オレがステータスを眺めてうなっていると、隣に座っていたユウキがスキル一覧を指差した。
「だけど見てよ。【棍棒術】を新しく覚えたみたいだよ」
「お、本当だ」
「覚醒する前は経験値が一切入らなかったから、新しいスキルを覚えるのは楽しいなぁ」
「だったらオレが稽古をつけようか。戦闘だけでなく訓練でもスキルを覚えられるからな」
「お稽古デートだね!」
「デートって……」
「訓練場を予約しておかないと。週末でいい? 予定は開けておいてね。そのあとショッピングもしたい」
「はいはい。わかったよ」
ユウキは楽しそうな笑顔を浮かべて、明日の予定を話している。
「ユウキは変わったな」
「そう?」
「前は不安そうに俯いて自信なさそうにしていたのに。今まで自分を隠していたのか?」
「ボクは何も変わらないさ。変わったように見えるならロイスがボクを気にかけてくれてる証拠だよ」
ユウキはオレに身を寄せると、頭をそっと肩に乗せてきた。
「ボクのこと好きになっちゃった?」
「いや……その……っ」
「そこは素直に頷いてよ! でもまあいっか。そう簡単に釣れたら面白くないもんね。恋も冒険も難しいくらいがちょうどいい」
ユウキはクスクスと笑うとその場から立ち上がった。
「それじゃあ続きいきますか! ようやく体が温まってきたよ」
「覚醒して体力もついたみたいだな」
「これも愛の力だね♪」
「ダークプリーストが愛の力で目覚めていいのか?」
「愛が深いからこそ闇も深くなるんだよ。おお、我ながら名言」
ユウキはウインクを浮かべてメイスを構える。
すると、タイミングよく草陰や岩陰から追加のスライムたちが姿を現した。
「また出てきた。けど、こいつらどこから湧いてくるんだろう?」
「確かに……。分裂して個体を増やすと言っても限度がある。近くに川もないはずなんだが……」
これまでに100匹以上のスライムを倒した。
スライムは水の体を持つ粘着生物で、自身の体を分裂させて分身を増やす厄介なモンスターだ。
弱点は炎で、水分を好んで水辺や湿気の多い洞窟に潜んでいる。
体内の水を失うと冒険者を襲って水分を吸収する特性もあった。
「水、水かぁ……」
オレは飲み終わった水筒を手にして、逆さまにしてみる。
底に残っていた水滴が大地に垂れると――――
――――チュポン。
「……っ!? 吸い込まれた!?」
土に水が染みこんだわけではない。
湖面に水滴が落ちたように、地面に波紋が広がった。
次の瞬間――――
――――グニュン!
地面が大きく波打った。
「……っ! ユウキ!」
「きゃっ!?」
オレは咄嗟にユウキを突き飛ばした。
「ジュパアアアアアアアアアアッ!」
鯨が潮を吹いたような音とともに、地面に大穴が開いた。
それは周囲一帯を包み込む巨大な巨大なスライムの大口だった。
「ロイス!」
「ぐぼっ……っ!」
逃げる暇なんてない。
気がつけばオレは、地面に開いたスライムの大口に飲み込まれていた。
(くっ……! い、息が……っ!)
まともに呼吸ができずに意識がもうろうとしてくる。
やがてオレは水の中で気を失い、静かに生命活動を終え―――――
――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――――
―――――
(終わってたまるか!)
薄れゆく意識の中、オレはカッと目を見開いた。
巨大なスライム風呂の中を泳ぎながら自分のステータスを確認する。
(ステータスオープン!)
――――――――――――――――
【ロイス・コレート】
●冒険者ランク:ゴールド
●クラス:デュラハン(Lv3) ファイター(Lv30)
●能力値:【体力57】【反射42】【知覚34】【理知25】【幸運1】
●ユニークスキル:【死因回避】
●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】【水中呼吸】【水泳/中級】
――――――――――――――――
(やっぱりだ! 【水中呼吸】を覚えてる!)
溺れ死ぬ前は手も足も出なかったが、今回は息苦しさがかなり軽減されている。
オレは【水中呼吸】を覚えている。
そう意識すると水の中でも呼吸ができることに気がついた。
(すでに【死因回避】は発動している……!)
意識がもうろうとする中で、オレは一度デッドエンドを迎えていたようだ。
だが、すでにオレは蘇った。
(こうなればこっちのものだ!)
オレは水の中で立ち泳ぎを行い、冷静にスライムの弱点を探す。
魔物と動物との違い。それは体内に魔石を持つことだ。
魔石は魔物の能力値を底上げする魔力の塊で、破壊されると一気に力を失う。
魔物にとってのパワーアップアイテムでもあり、同時に弱点でもあった。
(あった……!)
スライムの体は透明で、しかもオレを体内に取り込んでいる。
魔石を見つけるのは簡単だった。
スライムの魔石は真珠のような丸いカタチをしていた。
「ピィィ!」
魔石を護ろうというのだろう。スライムは不定形の体を活かして内側に無数のトゲを生み出した。
剣山やイガグリのような鋭くて細いトゲが目の前に現れ、オレの泳ぎを邪魔してくる。
水中では盾も使い物にならない。鋭利なトゲが鎧の隙間に狙って入り込み、オレの肌を裂いた。
(これくらい……!)
だが、オレには【刺突耐性】スキルが備わっている。
(くたばれ……!)
オレは痛みを堪えながら手にしたブロードソードを振るい、魔石を砕いた。
「ピギィィィ!」
甲高いスライムの断末魔。たまらずオレを体外に吐き出す。
だが、魔石を砕かれたスライムの崩壊は止まらない。
――――シュオオオオ…………。
巨大なスライムの粘体が泡を立てて蒸発。跡形もなく消え去った。
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