第13話 チート装備召喚! ボススライムを撃破する


 巨大なスライムを倒すと、ユウキが慌てた様子で近づいてきた。



「大丈夫っ!?」


「一度死んだがなんとか戻って来られた」


「えっ!? すでに死んでたの!? 一回ループしてるってこと?」


「そうなる」



 水浸しになったオレが頷くと、ユウキはオレの手を取って自分の胸に押しつけた。



「うわっ!? 急になにをするんだ!?」


「この感触覚えてる!? スライムより柔らかいボクの胸! ボクたち愛し合った仲だよね。あの夜のこと忘れてないよねっ」


「忘れてないっ! だから手を離せっ」



 オレは慌ててユウキから身を離す。ユウキは安堵のため息をついた。



「よかったぁ。死んで蘇ると時間もさかのぼるんでしょ? ボクとの出会いからやり直したのかと思った」


「そこまで戻らないから安心しろ」



 とはいえ、どこまで時間が戻るかオレもわかっていない。

 ユウキに殺されたときは一ヶ月も時間をさかのぼったからな。



「でも、本当にいいの?」


「なにが?」


「いつもボクの胸をジロジロと見てくるじゃない。揉みたいなら揉んでもいいんだよ?」


「バカっ。おまえはもっと自分を大切にしろっ」



 オレは真剣な表情を浮かべて、ユウキの肩に手を添えた。



「そうやって簡単に身を許すな。ユウキ、おまえは魅力的な女の子だ。優しくされた男が勘違いするぞ」


「えっ? あ、うん……ありがと……」



 ユウキはそこで戸惑い気味に頷くと、耳まで紅くしながら呟く。



「というか、キミのことを勘違いさせたいんだけど……」


「あっ、確かにそういう流れだったか」


「ぷっ、あははは!」


「なんだよ、どうして笑うんだ」


「ううん。なんでもない。ロイスも抜けてるところがあるんだなぁと思ったら安心した」



 ユウキは屈託のない笑顔を浮かべると。



「それとありがと。魅力的でごめんね?」



 照れたように、だけど嬉しそうにウインクを浮かべた。



(……あっ、大変だ)



 ユウキの笑顔を見たとき思った。直感というか確信だ。

 いつになく胸の鼓動が早まっている。この気持ちは――




「シュオオオオオオオ!!」



「……っ!? なんだ……!?」



 オレがユウキの笑顔に目を奪われていると、水が噴き出したような音が周囲に響いた。


 先ほど倒した巨大なスライム。

 そいつが消えて開いた大穴の奥から、紫色のスライムが姿を現した。



「あれはダークポイズンスライム……!」



 ダークポイズンスライムは、スライムの上位個体だ。

 自ら細胞分裂を繰り返すことで分身を生み出して、高い知性で群れを操作する。

 ユウキが倒したザコスライムや、地中に隠れていた巨大スライムはコイツの分身だったのだろう。



「あいつがスライム無限増殖の元凶かもな」


「分身を殴りすぎて怒らせちゃった?」


「あり得る……」


「シュオオオオオ……」



 ダークポイズンスライムは体から湯気のようなものを発していた。本当に怒ってるようだ。

 オレは聖騎士の盾を構えて、ユウキを後ろに下がらせた。



「あの煙は毒だ。ユウキはマフラーで口を塞げ。オレは【ホーリーレジスト】で中和…………できない!?」



 今のオレはパラディンではなくて、デュラハンだった!

 パラディンが覚える初期スキル【ホーリーレジスト】。

 その効果は毒や麻痺といった状態異常攻撃を無効化できた(過去形)。



「どうすれば!?」


「慌てないで」



 いつもと勝手が違うことで戸惑うオレに、ユウキは優しく微笑んだ。



「今こそ真の力を使うとき! ちょっとくすぐったいけど我慢してね!」



 笑顔から一転。ユウキは力強く叫ぶとオレの胸に手をかざした。



「【闇の寵愛】!」




 ――――



 オレの胸に黒い魔法陣が浮かび上がる。

 それは黒い翼の刻印――死印だった。



「これは……!」



 死印が胸に浮かび上がるのと同時に、力が湧き上がってくるのがわかる。

 暖かくも冷たい、矛盾した力の流れに身を任せる。


 黒い光が体の内側から溢れ、光が鳥の羽に姿を変える。

 黒い羽がオレの鎧や盾に吸い込まれていった次の瞬間――――



 ――――



 一瞬の稲光。

 目を開けるとオレは、漆黒の鎧に身を包んでいた……!



「この姿はいったい……?」



 変化していたのは鎧だけではない。盾や剣も黒く染まっている。

 戸惑うオレを余所に、ユウキは得意げに胸を反らしていた。



「これこそが【闇の寵愛】スキルの真骨頂! さ!」


……!?」



 なんだその冒険心をくすぐるような素敵ワードは!?



「ボクの黒衣と同じで魔力で作った装備だよ。死印を通して一時的にパワーアップさせたんだ」



 そう言ってユウキはステータスを表示させた。



 ――――――――――――――――


【ロイス・コレート】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:デュラハン(Lv3) ファイター(Lv30)


 ●能力値:【体力570】【反射420】【知覚340】【理知250】【幸運1】


 ●ユニークスキル:【死因回避】

 ●所持スキル:【シールドマスタリー】【ダークシールド】【闇の寵愛】【剣技/上級】【攻防の構え】【炎耐性】【刺突耐性】【水中呼吸】【水泳/中級】


 ――――――――――――――――



「能力値がバカみたいな数字になってる!」


「単純計算で通常時の10倍強くなっている。スキルは経験で覚えるものだから上がらないけどね」


「十分だ……!」



 体の内側からパワーがみなぎっているのがわかる。

 今ならどんな強敵でも倒せそうだ。



「ダークポイズンスライムはオレが相手をする。ユウキは後方から援護を頼む」


「了解!」



 ユウキを後ろに下がらせたあと、オレは聖騎士の盾改め漆黒の盾と、黒く染まったブロードソードを構える。



「シュイイイイ!」



 ダークポイズンスライムが動いた。



 ――――ジュポン!



 粘体の体から毒の水鉄砲を放つ。



「せっかくだ。試してみるか」



 オレは漆黒の盾を突き出して水弾を迎え撃つ。



「【ダークシールド】!」



 魔属性の魔法を吸収するスキルを発動。



 ――――



 魔法球は盾に吸い込まれた。



(よし……!)



【ダークシールド】を使うのは初めてだったが上手くいったようだ。


 ダークポイズンスライムが放つ毒の水鉄砲は、魔と水の複合魔法だ。

 二属性の複合魔法攻撃は対処が難しく、中途半端な魔法防壁を突き破る。


【ダークシールド】は魔属性の攻撃を吸収可能だ。

 盾で吸収してしまえば毒も効果を失う。

 水魔法は盾が元々持っていたレジスト効果で難なく受け流せる!



「キュオオっ!」



 形勢不利と判断したのか、ダークポイズンスライムは連続で水鉄砲を放ってきた!



「無駄だ! ユウキ援護を!」


「【ソードエンハンス】&【ファイアーエンチャント】!」



 ユウキの二重強化魔法が発動。

 俺の持つブロードソードの刀身に炎属性の魔法が付与された。



「くらえ!」



 真っ赤に燃える炎の剣による横薙ぎ一閃。



 ――――ズバァァァァ!



「ピギャアアアアア!」



 ダークポイズンスライムは悲鳴をあげながらその身を沸騰させ、一瞬で消滅した。

 戦闘が終了すると同時に、鎧にまとわりついていた魔属性の魔法も解けて元の聖騎士の鎧に戻った。



「消えた……?」


「魔装具を召喚すると大量の魔力を消耗するんだ。体内の魔力がなくなるとそうやって消えてなくなる。ボクの服が破れたみたいにね」


「ん……? 待てよ。体内の魔力がなくなるってことは……」



 くらり、と急に目眩を覚えた。

 オレは立っていることもままならず、その場に倒れてしまう。



「よく頑張ったね」



 倒れる寸前、ユウキがオレの体を抱えてくれた。

 豊満な胸がクッションになってくれた。温かくて気持ちがいい……。



「これで準備運動が終わった。戦闘で生き残るためにもパーティーの実力を把握するのは大事……だもんね?」



 ユウキはオレを抱きしめながら、くすりと微笑む。

 オレは指すら一本も動かすことができず、抗えない眠気に屈した。



 ◇◇◇◇



 ――――その日の夜。



「ふぅ……」


「しくしくしく……。眠ってる間にまた終わってた……」



 気がつけばオレは宿のベッドにおり、裸になったユウキの隣でメソメソと泣いた。




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