番外編
チーム・イケメン編
第1話 「仲間」
突然ですが、あなたは今世紀最高のイケメンを知っていますか。
今、Itube(アイチューブ)という動画・配信に特化した無料アプリが一世を
そんなItubeは、誰でも動画を投稿したり配信をすることができますよね。
動画の再生回数に応じて収益が得られ、実際にItuber(アイチューバー)として、収入を得ている人も少なくない……。
その中でも、最近はある3人グループが注目を浴びています。
グループ名は【チーム・イケメン】
なんの
どうせ、大したことはない。
この名前を見た時、そうは思いませんでしたか?
ですが、彼らは初配信から一躍有名となった人気グループなのです。
なぜだか分かりますか?
それは、彼らが今世紀最大のイケメンだったからです――――
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記事を閉じ、ため息を吐く。
もっとあっただろ。
配信のジャンルとか、投げ銭の最高額とか。
「ネット記事のクオリティに、鼻から期待はしていませんでしたが……その中でも酷いものですね」
眼鏡をくいっと上げて、
「だな」
肩を竦めて賛同する。
この手の話になると、俺と季楽は話が合う。
「所詮は素人の真似事ですね。なぜ、こんな記事を書いたのでしょうか」
「さあな。流行だからっつって、ろくに調べもせず適当に書いただけだろうな」
流行の恐ろしさ、重要さは、理解してるつもりだ。
耳残りがよくショート動画に使われやすい曲に、視聴者からの需要がぐっと上がったコンテンツ。最新のゲームから、最近好かれてるItuberの傾向まで、俺らは普段から研究してる。
こんなんでも、人気Ituberだからな。
流行に乗るってのは、大事だ。
無名が有名になるための足掛かりになるし、現時点で有名なやつも、新しい視聴者を獲得する機会になる。
「あり得ますね。なんにせよ、こちらには名前を知ってもらう程度のメリットしかありませんが」
「ま、顔面を期待する視聴者は増えるんじゃねぇか?」
「もし本当に増えるのであれば、うちの専売特許なので助かりますね」
「……そう考えりゃ、なかなかいい記事だな」
そんなことを言っていると、宇宙が頬を膨らませた。
「2人とも、もうちょっと素直な反応できないかな~」
宇宙の言葉に、すかさず季楽が反論する。
「別に、私達はエンタメのために読んでいるわけではありませんから」
「書いた人はエンタメ目的なのに!」
「そんなことは関係ありません」
2人の方向性は、正反対だ。
度々、こんな感じの言い争いになる。
そういう時は大抵――
「……面白くない」
宇宙が拗ねる。
「お、俺は楽しんだぞ」
「嘘だ」
バレた。
宇宙の鋭さが、変な方向で発揮されちまったみてぇだ。
「ボクは、2人が喜んでくれると思って、記事を見せたんだもん……」
こういう時の
余計なこと言って機嫌を損ねると「配信に出ない」って言いだすし、放置すりゃあ2週間はこの調子だ。
かといって、当たり障りねぇ言葉には
季楽と目を合わせる。
お互い、打つ手なしといった表情だ。
仕方ねぇ。
あの方法を使うか。
幸いにも、宇宙の機嫌を直す方法は1つだけある。
「アイス」
呟くと、宇宙がぴくっと反応する。
相変わらず分かりやすい。
「バニラアイス、2個でどうだ」
少し迷う素振りを見せた後、宇宙は静かに頷いた。
「行ってくる」
そう言って、俺はボロマンションをあとにした。
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あの部屋、冬は流石にさみぃんだよな。
コンビニの暖気を浴びながら、ぼんやりと考える。
勿論、ストーブと
アイスコーナーから、ウルトラカップのバニラ味を2個カゴに入れる。
……こんな真冬に、よくアイスを食べようなんて思うよな。
しかも2個。
今夜の配信が終わったら、一気に食うんだろう。
いつものことだが、俺には理解できねぇ。
まあ、宇宙は大食いの担当でもあるしな。
胃袋の頑丈さ、でかさが、常人とはちげぇんだろうよ。
適当に選んだスナック菓子を、3袋カゴに入れる。
ストックがなくなってたからな。
スナックをストック。
あ、これ韻踏んでねぇか?
……くだんねぇな。
「会計頼んます」
「はいー!」
元気のいい店員だ。
やっぱり、1番は元気だ。
とりあえず笑ってりゃあ、周りは勝手にいい印象を抱く。
配信者の鉄則ってやつだな。
……ま、俺と季楽は元気系じゃねぇけどな。
「全部で870円になりますー!」
「1000円で」
「はーい! 130円のお返しです。ありがとうございましたー!」
「ありがとうございます」
店を出ると、冷え切った風が通り過ぎた。
「さっびぃな」
舌打ちして、足早に歩きだす。
俺が外にいる時は無風でいろよ……。
話を戻すか。
笑顔には、使い方ってのがあんだ。
宇宙やさっきの店員みてぇに、振りまくのも1つの手。
ここぞという時にだけ笑うのも、1つの手だ。
ギャップが生まれるからな。
俺や季楽は後者だ。
たとえば、季楽は論理的なキャラだって設定だ。
いつも冷静沈着で、客観性を持ってる。
余計な手間を嫌う性格だから無愛想なところはあるが、何かトラブルが起きた時には真っ先に頼れる存在。
そんな奴が、ふと見せる笑顔――
そういうの好きだろ。
ちなみに、季楽が配信で笑う時ってぇのは大体決まってる。
1つ目は、金を数えてる時。
2つ目は、必要だと思った時。
あいつは自己プロデュース力が異常だ。
演技力もたけぇから、内心楽しんでいたとしても、平気でつまらなさそうな顔が出来る。
逆に、配信での笑顔は微塵も信用できねぇ。
どうだ。面白れぇ奴だろ。
ま、うちは全員そこそこ自己プロデュース力たけぇから、配信中は誰も信用できねぇけどな。
宇宙は笑顔と明るさを欠かさない、いわゆる元気キャラってやつだ。
積極的に企画を持ってきたり、ドッキリを仕掛けてきやがることが多い。
俺と季楽だけじゃ、宇宙の明るさを補えねぇ。
ありがてぇムードメーカー的な存在だ。
ふざけたキャラは、視聴者や同じItuberから下に見られがちだ。
だが、宇宙は線引きを徹底している。
ノリでも言ってはいけないことを、絶対に言わせない。
簡単にいやぁ、“怒ると怖い”っていう2面性を使い分けてんだ。
賢い奴だよ。
(ん? あれは……)
ボロマンションに着くと、見知った顔があった。
この前のあいつだ。
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結論から言うと、詩音は悩んでなんかなかった。
俺は、ちょっとした助言しかしてねぇ。
それだけで、あいつは走り出せた。
……思えば、最初に会った時もそうだったな。
あいつは強ぇ。
これからは、ユージって奴が支えるだろうし、もう会うことはねぇだろうな。
「っはー、3時間の配信は疲れるねぇ」
大きく伸びをしながら宇宙が言う。
それを見た季楽が、「お疲れ様でした」と眼鏡を上げた。
「おう、お疲れ」
肩を回すと、ボキボキと音が鳴った。
そろそろ、近くのマッサージ店に予約入れとくか。
「葵はボクに感謝してよね~」
冷蔵庫からアイスを取り出しながら、宇宙が言う。
「ありがとよ」
配信の時間ぎりぎりまで詩音の話を聞けたのは、季楽を説得した宇宙のおかげだ。
また明日にでも、追加でアイスを買ってやるか。
礼を言われると思ってなかったのか、宇宙は目を見開いた。
それから、平静を装うようにして「て、てか、未成年を連れてくんのやめてよね」と言った。
「あいつ、大学生だっつってたぞ」
「はあ? 絶対嘘じゃん。高校生でしょ」
「本人が言ってんだから嘘じゃねぇよ。俺もそういうつもりで連れてきた」
そう言うと、大袈裟なため息が聞こえてきた。
「葵さん」
「なんだ?」
季楽は、パソコンを見ながら言葉を続けた。
「あなたが何をしようと、誰を助けようと構いません。私もあなたに救われた身ですから。
ですが、活動に支障をきたすのだけはやめてください」
「ああ……わぁってるよ」
「ならいいです」
「ちょっと、真面目に考えてよ。未成年を連れてくるって、どういうことか分かってんの?」
宇宙が眉間にしわを寄せる。
正論だ。
俺らは成人……まあ、つまり大人だ。
大人としての責任や常識を守るんなら、
「俺は覚悟してる。お前だって、俺と活動するって決めた時に覚悟したんじゃねぇのか?」
「……せめて回数を減らしてよ。年に1回とかさ」
「あのスナックに居なきゃ連れて来ねぇよ。
お前や季楽のことだってな」
宇宙は押し黙った。
今のは、卑怯な言い方だったかもしれねぇな。
だが、俺にも譲れねぇもんがある。
あのスナックに来る奴らは、みんな自殺を望んでんだ。
1人で抱え込んで必死に悩んで、苦しんで……その先で、報われねぇ奴らが集まってくんだよ。
……俺だって、オカマに声をかけられなきゃ、そのうちの1人になってた。
スナックに来るのは
それを、どうやって見捨てろってんだ。
「葵さんの言うことは間違っていませんよ」
沈黙を、季楽が破った。
キーボードを打つ手は止まらない。
「あなたと共に活動をすると決めた時、あなたの信念や行動について行く覚悟も決めました。私も、宇宙さんも」
エンターキーを叩いて、季楽は俺の方を振り返る。
「ですが、宇宙さんが言っていることも間違っていません。
今回は助けてもらった身ですし、少しくらい彼の気持ちを汲んであげてもいいのでは? 葵さんの信念を否定したいわけじゃないんですから」
「…………」
宇宙を見ると、今にも泣きそうだった。
ああ、そうだ。
宇宙と出会ったのは、こいつが高校生の時だった。
なら、分かってねぇわけじゃねぇのか……。
「宇宙、俺が悪かった」
「……ボクも、ごめん」
そう言うと、宇宙は俺にアイスを差し出してきた。
仲直りのつもりなのか?
俺が買ったやつじゃねぇか……いや、ここは素直に受け取るべきだな。
「オカマが選んだ人間は、今んとこ大丈夫だ。
通報もしねぇし、ガチ恋もしねぇ。
あと、保護者が探しに来ることもねぇ」
「…………うん」
「選ばれる人間は、放っておいたらいつか死ぬような奴だけだ。まだ自分でどうにか出来る奴は、オカマが追い出す」
「それは、葵じゃなくても、他の人が助けてくれるんじゃないの……?」
宇宙が上目遣いで聞いてくる。
Ituberとしての活動がどうのこうのってのもあるだろうが、根本は俺自身のことを心配してくれてんだろうな。
「滅多にいねぇよ。だから、俺がやんなきゃいけねぇんだ」
「いつか捕まるかもよ?」
「そん時は、仕方ねぇな」
「もー!」
頬を膨らませる宇宙を見て、苦笑する。
こんなことを続けてたら、1度は警察の世話になるだろうな。
オカマはバレたことないらしいが……それも、いつまでか分かんねぇ。
「ボクと季楽も捕まっちゃうだろうね?」
そう言って、宇宙は笑った。
「上等です」
季楽が眼鏡を上げる。
おいおい、口が緩んでんじゃねぇか。
「宇宙、季楽、ほんとにありがとな」
「やれやれ……次の企画、葵さんが考えてくださいよ」
「あっ賛成! ちょうどネタ切れだったし」
「ああ、任せとけ」
アイスの蓋を開け、1口食べる。
それから、自分のパソコンを起動した。
「明日までに考えてくれると嬉しいなー」
「まじかよ!?」
「宇宙さん、それはいけません」
季楽が制止する。
流石に、明日までってのは無茶だよな。
今は断れねぇ立場だから、代わりに言ってもらえて助かった。
「明日なんて生温い。今日までにしましょう」
「いいね!」
「なんでだよ!」
「あははは」
ツボに入ったのか、宇宙がゲラゲラと笑い始めた。
「ったくよ……」
少しして、俺も季楽もつられて笑った。
改めて実感したよ。
俺は、最高の仲間に出会えたんだってな。
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次回 2023年1月14日18:00
第2話 「オカマのいるスナック」
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