第11話 境界封穴(2)

 見るからに敵意を放っていた巨大なガイコツから逃げるために入った小さな洞窟を抜けた先、その行き止まりで出会った低級神ボルニスにより、ろくに説明もないまま問答無用で「神性を帯びた骨」を与えられたカッシュ。

 大量に突き刺さった骨の破片が身体の内側に入り込んだ結果、大がかりな外科手術で作り替えたように体格が大きくなっているため、シルエットだけなら同一人物とは思えぬほどだ。

 おそらく、見た目だけにとどまらず基礎的な体力も上がっている。

 どんな副作用や代償があるのか油断もできないので「強くなった」と無邪気に喜んでいいのかどうかもわからぬまま、思案するには十分な時間をとれぬほど短い洞窟を出たカッシュがため息を漏らした。


「つまり、お前の頭をどこかで暴れている首無しガイコツの体にくっつければいいんだな?」


「うむ」


 と偉ぶって頷き、問いかけたカッシュのすぐ胸元で答えるのは神性を帯びたガイカツだ。

 その辺の道端で捕まえた猫や犬を抱きかかえるように、しゃべる頭蓋骨を左腕に抱えているのである。


「そうだとも。頭である俺が一つになれば、今もどこかで勝手に動いている体を制御することができる。そうすればお前たちを襲うこともなくなるだろう。……ただし、くっつけばどこでもいいというわけじゃないからな。背中やかかとに顔があるのは生活するうえで非常に不便だ。お前たち人間と同じ場所につけろ」


「おいおい、神は人間よりも多様性があるんじゃなかったのか」


「地上の世界には骨だけの人間がいるのか?」


「……少なくとも生きている人間で骨だけのやつは見たことも聞いたこともないな。精霊ならまだしも」


 こいつが精霊であれば、何かしらの精霊契約を結べたんだろうが――とカッシュは嘆息する。

 自身が目をつけた人間に対する試練なのか、呪いなのか、あるいは押しつけがましい祝福のつもりなのか、神であるボルニスに命じられた課題をこなす羽目になったのだ。

 失敗した場合に「神罰が下る」とすれば、そんなもの知るかと無視して逃げることもできそうにない。


「今から相手をする首のないガイコツも、頭だけになっている私と同じで神だからな。奴と同じ武器で腕試しできるのは勇敢なる騎士として心が躍るだろう?」


「どうだか。精霊樹の槍や盾がしばらく使えなくなっていたから助かるのは事実だが……」


 自信なさげなカッシュの右手に握られているのは白い骨でできたこん棒である。これもまた骨を自在に操るボルニスの力で生み出された武器だ。

 どこかで見覚えがあるのはそのはずで、今から相手をしなければならない身体だけのガイコツと同じ武器である。なのでボルニスは人間と神による力比べだと面白がっているのだ。

 単純な力関係であれば体格の差でカッシュのほうが圧倒的に不利だが、彼に強みがあるとすれば一人ではないことだろう。


「フォズリ、お前はその剣で大丈夫か?」


「えっと、見栄を張らずに正直に答えると無理です。戦力の一人として期待されても、お役には立てないかと……」


 そう言って眺めるのはカッシュから受け取った剣だ。

 もともとはファスタン騎士団に支給されている一般的な剣なので、討伐隊の一員に加えられていた彼女も触ったことがないわけではない。使いこなせないだけだ。

 迷宮の戦闘では魔物との距離が取れる弓矢でも苦戦したので、いつ反撃を受けるかもわからぬ距離まで敵に接近して、勇ましく剣をふるう自分の姿がイメージできないフォズリである。

 一緒に戦う仲間として力になりたくても意味のある加勢は難しいだろう。


「やっぱりウルシュカはまだ駄目か」


「ですね。相当に疲れているようで、しばらくは目を覚ましてくれそうにありません」


「だったらお前に頑張ってもらうしかない。せめて自分の身を守るくらいはな」


「……はい」


 という声があまりにも落ち込んでいたので、不安に思ったカッシュは名前を呼んで気合を入れてやることにする。


「フォズリ!」


「あっ、はい! はい、はい、はい!」


 もうほとんどやけくそだ。

 いざとなればカッシュを押さえつけることもできたウルシュカであれば力になりそうだが、迷宮の中ではハチとイノシシの魔物に巨大カマキリと連戦が続き、魔法も酷使したせいで起きているのがいよいよ限界になっていたようだ。

 戦闘に不慣れなフォズリが不安だからといって無理に起こしても、おそらく満足に戦える状態ではない。

 頼りなくとも逃げる体力くらいは残っているフォズリが起きているほうがまだましだろう。


「安心してください、カッシュさん。僕がいますよ」


「そうだな。安心できるかはともかく、お前の場合は無理だと言っても強引に引っ張っていくつもりだった」


「大事な仲間ですもんね」


「なんとでも言ってくれ。ともかくは境界封穴を安全に抜けるためにも、行く手を阻んでいる骨の怪物をどうにかする必要があるだろう。この頭蓋骨に頼まれた用事はそのついでだ」


「そうですね、ついでにやってあげましょう」


 前向きに同意する少年の横で、フォズリに負けず劣らず自信なさげなユリカが気まずそうに立っている。


「あの、私、魔法は使えないと思ってください。お力にはなりたいですけれど……」


 うつむき気味な顔に脂汗をにじませている彼女は境界封穴に立っているだけでもやっとという状態だ。はっきり言って戦えるほどの余裕はない。

 すっかり熟睡してしまったウルシュカがそうであるように、魔法は魔力だけでなく精神力や体力を想像以上に使ってしまうのだろう。

 しかも彼女たち二人は威力の高い魔法を行使したのだ。

 今回ばかりは休んでもらうことになっても文句は言えない。

 それに、今までずっと迷宮の一室に閉じ込められていたユリカが普通の人間に比べて体力がないのは、なにも彼女のせいというばかりではあるまい。

 操られてはいないだけで、彼女もまた領王の被害者なのだ。

 そう思ったカッシュは諦めて肩をすくめる。


「つまり、今度ばかりは俺と少年の二人でなんとかせねばならんようだな」


「最悪の場合はその頭蓋骨を遠くから投げてみて、運よく首にくっつくか試してみましょう」


「そりゃいいな。馬鹿みたいに頑丈になった骨だけじゃなくて筋肉も強化されたみたいでな、今なら遠投もできそうだ。一回で駄目なら何度でも試せる。むしろいい武器になるんじゃないか?」


 こん棒の持ち手の先で天頂部をコツコツと叩きながらふざけて言えば、さすがにボルニスもむっとしたらしい。

 骨だけの姿でなければ舌打ちをして唾を吐き捨てていたであろう口ぶりで、あからさまな不愉快さをにじませる。


「神の頭部を投げるなどと、恐れを知らぬ愚か者め。これだから人間は……」


「俺の腕の中で偉そうにしてるがな、その愚かな人間に負けたのが神なんだろ。何度も言わせるな」


 と言って、紙を丸めた手製のボールで遊ぶように真上へと高く放り投げて、重力に引かれて落ちてきた頭蓋骨――ボルニス――を片手でキャッチし直すカッシュ。

 悪意はないにしても、さすがにこれは暴挙が過ぎる。

 横にいた少年がひやひやと眺めながら苦言する。


「危険ですよ、カッシュさん。神は何をするかわからないんです。あまりぞんざいに扱うとまた何かされますよ」


「ぞんざいに扱ったくらいで怒るか? 本当に神が不死身なら、こいつは何をされても死なないんだろ? なら間違って落としても壊れたりしない。この頭蓋骨が焦る必要もないだろう」


「そうかもしれませんが……」


 温厚な神であればそうかもしれない。不老不死をもたらす神性を手に入れた神々は人間や精霊と違って生き急ぐ必要もなく、焦りや怒りとは無縁の余裕に満ちた存在なのかもしれない。

 けれど伝承に残る現実の神々はみな傲慢で、神性を持たぬ人間や精霊を常に見下し、気に食わないという理不尽な理由でなぶり殺しにしてきた歴史がある。

 表層的な部分で友好的に見えたとしても、その内面まではわからず、決して油断してはならないのだ。

 にわかに警戒を強めた少年の気配に気づいたのか、神である自分をぞんざいに扱い続けるカッシュの相手をするのに嫌気がさしてきたのか、光の入っていないくぼんだ眼孔を少年に向けたボルニスが口を開いた。

 カタカタ、と不気味な音を立てながら問いかける。


「お前……ただの人間ではないな? 不完全ではあるが、わずかに神性を感じるぞ」


 初めての指摘だ。

 人ならぬ神を相手にして隠し通せるものでもないだろうと、少年は素直に頷く。


「はい。名前という加護を持たなかった僕は冥界に落ちたことがあって、そこで一人の神と出会ったんです。古代の戦争に負けてからずっと地上に出たがっていた彼は、まだ完全には死んでいない人間である僕を利用した」


「ほう?」


 神が冥界を脱出して地上世界に再び立つ物語に対して興味を持っているのか、ボルニスが声を低める。

 同じく関心を持ったらしいカッシュも頭蓋骨を使った遊びをやめて、黙ったまま二人の会話に聞き入っている。


「どう利用した? ここにお前が存在しているということは、その神に体が乗っ取られたわけでもあるまい」


「そうですね。お互いの魂の半分……というか、正確には体ではなく影を入れ替えたんです」


「影を?」


 眼球もないのに視線を下げ、境界封穴の赤茶けた地面を見下ろしたボルニス。そこに彼の影はあるはずだが、より大きなカッシュのものに重なっていて判別はできない。

 少年も自分の影を見下ろしながら答える。


「影を司る神、ヴェイス。彼の力によって僕は神の影を、そして彼は人間の影を手に入れた。『神』と『死者』を決して逃がさぬ牢獄である冥界。だけど借り物の神性によって死者とみなされなくなった僕と、奪い取った人間の影で神性を隠したヴェイスは冥界で鍛えられた剣を分け合って扉を開き、地上へと出られたんです」


「なるほどな……。影はある種の存在証明だ。今のお前は半神半人と呼べなくもない。しかし……」


 顔それ自体は動かさずにボルニスは視線を上げ、少年の全身を上から下まで眺める。


「肉体は違う。お前の神性は影だけに宿っている」


「その通りです。なので、僕の体が不老不死になっているわけじゃない。致命傷を負えば普通に死んでしまう。次に冥界に落ちた時、いくら神性を帯びた影を持っていても、一番大事な肉体が死んでいれば地上には戻れない」


 つまり領王との戦いで不老不死の力を使えるわけではない。

 精霊術や魔法よりも強いとされる神性の力で、領王の術に対抗できるわけでもないのだ。

 急速に興味を失ったのか、顔面に開いた二つの穴である眼孔にともっていた光が弱まり、一段と暗くなる。


「所詮は人間か」


「俺はどうなんだ?」


 おいおい、と言いながら片手で握ったまま揺さぶり、自分のほうに顔を向けさせてカッシュが問いかけた。

 よくわからない骨を埋め込まれて肉体を変えられてしまった自分が人間なのか神なのか、平気そうにしていても不安なのだ。


「人間だ」


 つまらない質問だと思っているらしく端的に答えるボルニス。

 いまいち信用していないカッシュは腕に力を籠める。

 本気を出せば砕けるほどの握力で、ミシミシと音がした。


「本当か? 神でなくても、その半神半人ってのになってるんじゃないのか? 仮にも神性を分け与えたんだろ」


「馬鹿め。人間ごときに完全な神性など与えるものか。簡単に死なれては困るから骨を作り変えてやったが、与えたのは不完全な神性だ。普通の人間よりは生命力が強くなったろうが、致命傷を受ければ普通に死ぬ」


 完全無欠の神になれなくて残念だったな、と笑うボルニス。

 しかしカッシュも嬉しそうに笑い返す。


「そいつは朗報だな。神なんぞの仲間入りをして、死ねない苦しみを永久に味わい続けるのはごめんだ。普通に死ねる人間のままでいられるのは幸福だよ」


「ふん。つまらぬ強がりを……」


 本質的に神は人間を見下しているので、人間でいたい人間の気持ちを正しく理解することはできない。

 あきれた気分で「強がりではなく本音だがな」と言い返そうとしたカッシュだったものの、その口は違うことを叫んだ。


「おい、お目当ての怪物が出てきたぞ! もう一度確認する! あいつの首にお前を乗っければいいんだな!」


「そうだ。うまくやれよ」


「もちろんだ! 失敗した後で小言を言われるのはたまらん! 少年、準備はいいな!」


「はい! 気を付けていきましょう!」


 小さな洞窟を抜けてしばらく歩いた通路の先に見えたのは、頭のない白骨巨人。カシャカシャと骨同士が擦れ合う音を響かせながら、少年たちのもとへ向かって一直線に歩いてくる。

 もしかするとボルニスの頭に反応しているのかもしれない。

 確信を得たわけではないものの、そう考えたカッシュが叫んだ。


「おい待て、今更ながら気が付いたことがある! その辺の地面に置いておけば勝手に拾って自分でくっつけるんじゃないか?」


 当然の疑問だ。頭部を求めてあちらから近寄ってくるのなら、あえて追い払う必要はない。

 つまり、努力する必要なくボルニスの願いを叶えられる。

 しかしボルニスはそれを否定した。


「いいや、奴は俺をいたぶるつもりだ。自分の体の支配権を俺に渡したくないはずだからな」


「そりゃあ納得だ。俺が体でもお前に主導権を握られるのはごめんだ」


「いいから戦え」


 自分で判断できる頭がくっついてるんだから言われんでもわかってる、とカッシュ。

 くるりと振り返って背後にアイコンタクトを送る。


「フォズリ、いったんこれを預かっておいてくれ! 騒がしくても捨てるなよ!」


「ええっ! あ、はい!」


 これから始まる戦闘の邪魔にしかならんと、それまで腕に抱えていた頭蓋骨を放り投げた。まさかそんなことをするとは思っておらず、驚いたフォズリはおろおろと焦りながらも受け取る。

 死なないとわかっていても落としたら大変だ。怒られて神罰が下されるかもしれない。


「おい、少年! こいつが本当に不死身なら殺すよりも動きを止めることを優先すべきだな! 足を中心的に狙ってひざまずかせる作戦はどうだ!」


「うまくいけば理想的です! 頭もくっつけやすくなります!」


「じゃあ決定だ! やるぞ!」


 たまりにたまった借りを返すべく、まずは先頭に立ったカッシュが真っ先に巨大ガイコツの相手をする。

 人間の気配を察するや否や出会い頭に白骨のこん棒を振り下ろしてきたので、負けてなるものかと両足で踏ん張って、ぐるりと腰をひねったカッシュが全力で打ち返す。今までなら力負けして後ろにひっくり返っていたに違いないが、今のカッシュは倒れることなく立ち続けた。

 ややガイコツ巨人のほうが上ではあるものの、ほとんど互角だ。

 これなら十分に戦える。

 不死の神が相手では簡単に勝てぬとしても、相手の注意を引き付けるための時間稼ぎくらいなら余裕だ。

 自信を手に入れたカッシュとは反対に余裕がなくなったのはガイコツ巨人である。その後は立て続けに乱暴にこん棒を振り回してばかりでカッシュにかかりきりになっている隙を見て、身を低くして走る少年が背後に回る。

 普通に鍛えられた鉄の剣なら骨は断てない。

 そう判断して魔力を込めたのか、刀身が青色に染まって輝く。


冥風斬めいふうざん!」


 狙い通り、綺麗に攻撃が入った。

 たった一筋でいくつかの骨が切断され、砕け散るようにバラバラと崩れ落ちる小片。

 完全ではなくとも足の骨を失えばバランスを保てなくなり、巨大な体を支えられず動きが鈍くなったところへカッシュの力強いこん棒が追撃を加えていく。

 次々と骨が砕かれ、巨人は小さくなっていく。

 誰の目から見ても戦況は一方的と言っていい。


「動きを止めるためとはいえ、自分の体が人間ごときに滅茶苦茶にされる光景を見ているのはいい気分ではないな」


「あ、あの……」


 怖がりながらも反射的にボルニスを受け取ってしまったフォズリは左腕で頭蓋骨を抱え込み、怒らせてはならぬと右手でそれを上からなでた。

 ゆっくり、ゆっくりと、ぐずりかねない幼子を寝かしつけるように。


「なでなくていい。神を猫や犬と思ってるんじゃないだろうな」


「猫や犬の神はいないんですか?」


「いたとして、俺がそう見えるか?」


 問われた瞬間、なでる手を止める。

 それから自分の顔と同じ高さまで持ち上げて、真正面からのぞき込むフォズリ。


「初めてまじまじと見ました。人間の頭の骨ってこうなってるんですね」


「に、人間……だと?」


「あの、フォ、フォズリさん……」


 邪魔にしかならないであろう自分がどこに立っていたらいいのかもわからなくなったユリカは怪物との戦闘に入った少年やカッシュだけでなく、神であるボルニスと至近距離で見つめ合っているフォズリのこともはらはらしながら見守っている。

 怖がりなのに怖いもの知らずなところもある彼女ののんきな大胆さに、思わず苦言を呈したくなってくるくらいだ。


「ユリカさんも見ます? 興味があるなら手でなでてみてもいいですよ。ザラザラしてるかと思ったら意外と表面はすべすべなので気持ちいいです。かわいいもんですね」


「いっ、いえ、結構です! こっちに向けないでください!」


 そうこうしているうちに一つの戦闘に区切りがついた。


「なんだ、楽勝じゃないか。もうしばらくは動けそうにもないぞ」


「もっと苦戦するかと思ってましたが、なんとかなりましたね」


 巨大なガイコツは二人の攻撃を受け続けて解体され、今ではいくつもの骨のかけらに分断されて周辺に散乱している。神性のおかげで死んだわけではないものの、もはや戦いどころではない。

 何も知らなければ、散らばった骨を丁寧に集めて埋葬してしまいそうな二人である。

 吸血コウモリなどの低級の魔物と比べればさすがに強かったろうが、神と聞いて身構えてしまった割には拍子抜けで、うっすらと汗をかくほどの戦いにもならなかった。

 カッシュなどは口を開けば神を馬鹿にする言葉が出そうになっている。

 何か言いたそうなボルニスが小刻みに震え始めたので、不気味がったこともあってフォズリが急いで駆け寄る。


「カッカッカ。神が戦争に負けた理由が分かったか? 自らの不死性にあぐらをかき、戦闘技術を高めようとはしなかったからだ。どんなに負けても勝てるまで殴り合いを続ければいい。ほら、急がんとそいつが骨をかき集めて立ち上がるぞ」


 実際、地面の上に散らばった骨は元に戻ろうとしているのかカタカタと動き始めている。小さなアリに運ばれているのかと思うほど緩やかな移動ではあるものの、放っておいたらガイコツの巨人は再び立ち上がりそうだ。


「わ、私がやります! この頭をくっつけるだけでいいんですよね!」


「フォ、フォズリさん!」


「大丈夫です! くっつけるだけですから!」


 心配するユリカの忠告むなしく、いつまでも誰かに任せてばかりはいられないと奮起するフォズリがボルニスの頭をつけるため名乗り出た。

 うっかり変なところに顔が付いたら大変だ。他の部位と間違えないように正しい骨を選び、向きや角度に注意しながらボルニスの頭を置く。

 それだけで彼女の仕事は完了である。

 強力な磁石に引き寄せられた鉄くずのように、ボルニスの頭部がくっついた瞬間から周辺に散乱していた骨が見えない力によって集められていく。

 そしてガイコツの巨人は正しい位置についた頭を手に入れて、立ち上がった。


「本当、人間は馬鹿だな」


「ああ! ちょっと! 放してくださいよ!」


 その手には、首根っこをつかまれたフォズリがぶら下がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る