第12話 その後のマリリン

 渡辺家に保護され九死に一生を得たマリリン、後躯麻痺という後遺症が残り、排尿排便の介助が必要となってしまったが、入院中にご主人がたびたび見舞いに来られ、排尿介助のトレーニングも済んで、無事に退院していった。

 しかし、マリリンは元々野良で人に慣れていないこともあり、退院後の様子を多村も石松も気になっていた。


「石松、マリリンさんの里親の渡辺さんの家、おまえさんの地元だよね。

 ひとっ走り行って様子を探ってきてくれないか。

 おまえさんも気になってるだろ。

 ということで、今回は追加料金なしでやってくれるかい。」


「先生も冗談きついなー、病気持ちの俺をこき使うなあ。

 確かに俺も気にはなっているけど、そういうことと仕事はきっちりと線引きしたいんだよねー。

 これからもさ。」


「了解だ。今回は特別にイムノチュールを1か月分プレゼントするよ。

 遠慮なく服用してくれ。」


「おお、そうこなくちゃ!

 急に元気が出てきたぜ。

 じゃあ、ひとっ走り出かけてくるぜ。」



 石松親分はそう言い残して渡辺家のある都立大学方面に一目散に駆けていった。サプリのプレゼントが効いたのか、目にも止まらぬスピードだった。


「先生様。石松、帰りやした。」


「おお早かったじゃないか。マリリンはどうだったかい、元気にしていたかい。」


「おおその事だがな、マリリンは元気だったよ、すこぶる・・・ ・・・。」


「なにかおまえさん、意味深な言い回しだが、心配事でもあるのかい。」


「いやね、渡辺家に元からいた犬や猫がねちょっと。あ―それと旦那さんがね・・・。」


「ちょっと、なんだい。」


「あのな、マリリンは以前、目黒の女帝といわれるほどの女親分だったのさ。

 もちろん噂は俺も知っていたけど、まあさすがに女帝といわれていただけあって、渡辺家で大切に育てられてきた動物たちとはかなり、まあ何というか、まあ簡単に言うと。」


「おい、親分、端的に話してくれないか、午後の患者さんが待っているから。」


「はいはい、今や渡辺家のナンバー2として家の中で仕切っちまっているのさ、すべてのことを。」


「ええ、まだ家族になって数日しかたってないのにかい。

 いやいや待てよ、ナンバー2って言ったよな。」


「そうそう。」


「じゃあトップは誰だい、旦那さんか、優しそうに見えたけどなー。」


「そいつははずれでっせ。奥様に決まってるだろう。奥方ですよ。」


「ああそういうことか。まあ女性が強い世の中のほうがうまくいくと思うし、

 マリリンが家族の一員となり、新たな秩序で皆平和に暮らしているなら最高じゃないか。

 渡辺さん家族に乾杯だよ。」

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