第8話 石松親分、動物病院の相談役となる

「おお、石松そんなところで日向ぼっこしていると、隠れてタバコ吸っている看護師から受動喫煙しちまうぞ。」


「ああ先生かい。俺たちも体に悪いのかい、その受動喫煙とやらは。」


「ああ。悪いに決まってるさ、というよりおまえさんたちは嫌いだろ、あの煙は。」


「そうさ、大嫌いさ。クリニックに来る飼い主さんにもよくよく伝えて欲しいな。猫のいる部屋では禁煙、いや猫を飼う人は禁煙してもらいたいくらいだよ。」


「それはそうと、ちょっと悩み事があるんだが、相談にのってくれないか。」


「いいよ、面白いことならね。」


「いや結構深刻な話だ。

 私はお前さんとは気さくに会話ができるけど、どうもほかの猫とはうまくしゃべれないし、聞くこともできないんだ。」


「分ってるよ。俺は特別だからな。

 でも先生の言葉はすべての猫は理解しているよ。」


「おおそこだよ。

 私もそれは感じているんだ、それが悩みのポイントで、

 つまり会話が一方通行だということだ。そこが実に不安なんだ。

 私の診療がお前さんたちに納得してもらえているかどうかを詳しく知りたいんだよ。そこんとこ協力してくれないか。」


「つまりだな、聞き取り調査をして報告すりゃいいんだな、先生へ。」


「おお、その通り。事細かくね。」


「簡単なことよ。

 でも先生でも気になるのかい、ネットの書き込みが・・・ ・・・。」


「何言ってるんだ、明日の診療に少しでも役立てたいというピュアな気持ちですよ。」


「ハイハイ、わかりやした。バイト代は1件に付き、イナバのチャオチュールの味違いを5本でどうだい。」


「いいだろう、それに動物病院専売のエネルギーチュールを特別に1本つけようじゃないか。」   


「おい、そりゃほんとですかい、術後の体にはぜひ欲しいところだねー。早速始めましょうか、聞き取り調査。」


「そうだね、崎田様のエルビンって子、もう入院して5日目なんだが、バーマンって種類で、体調がどうなのか顔つきからはどうも判断が難しくて迷っているんだ。食欲も出てきてるし吐き気も収まっているようなんだがね。ちょいと聞いてきてくれないか。」


「エルビンだね、あの東南角部屋にいる、偉そうにしている奴。」


「おまえもそう思っていたのか、でも案外といい奴のような気もするが、そこんとこも探りを入れてくれないか。

 日本語が通じるのかい。」


「何言っているんだ先生、日本語でしゃべるわけがないだろう、俺たちの言葉だよ、ニャーニャー・・・ ・・・。

 ちょいと話してくるぜ。」



「おいエルビン、今月からこのクリニックの医院長の補佐役として雇われた石松だ、よろしくな。お前さん洋猫だよな、毛足も長いし。

 おいおい、そんなに斜に構えないでくれないか、ちょっと話したいだけだから。」


「石松さん、僕は皆さんから、おフランス出身と言われてるけど、実はミャンマーなんですよ、原産国は。」


「おっと、洋物かとばかり思っていたぜ、ちょっと親近感がでてきたような、感じかな。

 まあそんなことはどうでもいい。エルビン、おまえさんに聞きたかったのは、どうだい体の調子は、何度も吐いて食欲もなくなっちまって入院したんだろ、今はどうだい。先生の治療で楽になったかい。先生はもうそろそろ退院を考えているようだけど。」


「本当ですか。それはありがたい。早くうちに帰っておばあさんの世話をしないと。

 うちはおばあさんと2人暮らしだから、僕がいないとだめなんです。」


「なにがだめなんだ。おばあさんは1人でも平気だろ。」


「いやだめです。僕に毎日話しかけているから呆けないのですよ、おばあさんは。

 僕の方からも積極的に話しかけるようにしてます。その時は必ず目を見るようにしてます。」


「なるほど、人も大変な時代になっちまったもんだ。一人暮らしの高齢者問題ねー。

 ところで吐き気はもうないのかい。」


「はい、すっかり元に戻りました。先生の治療薬が、そうですね、消化管の上部の働きを改善する薬、とやらが特によかったみたいです。僕たち長毛種はグルーミングの時に大量の毛を食べてしまうせいか、どうしても腸管の働きが鈍ることが有るようですね。先生はそのことを御存知だったようです。」

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