第32話 ワタシがアイツを誘うだけ

 ――金曜日――。


 それは、学生が平日の中で一番待ちわびた日ではないだろうか。

 少なくとも、ワタシもその内の一人だ。

 だが、そうとも言っていられない状況があるすれば、どうだろう?


(瑞樹……)


 昼休みも終盤に差し掛かり、ワタシは、今までにない焦りを感じていた。

 スカートの右ポケットに入っているプリントが、その原因だ。

 そこには、“バレー”と“大会”の二つのワードが並んでいた。


(……どうやって、誘えばいいんだ……?)


 そう。瑞樹に試合を見に来てほしいのだが、その誘い方がわからないのだ。

 月曜日からずっとこのことを考えていたこともあって、まったく授業に集中できないでいた。


 はぁ……。


「奈緒~。ジュース買いに行こうぜ~♪」

「い、いいけど……」


 眩しい笑顔を向けてくるアイツに、呆気に取られている奈緒。


「なにかいいことでもあった?」

「べ、別に~っ♪」


 ……絶対にいいことあったな。


「ほぉ~。よしっ、じゃあ行こっか♪」


 急に笑顔になった奈緒は、ニヤけ顔のあの女を連れて、外にある自販機へと向かった。

 そのときのアイツは、なぜかルンルンっとリズミカルなスキップをしていた。


(なんだ……? 気味の悪い……って、そんなことより……)


 二人がいなくなったことで、この場にはワタシと瑞樹の二人だけ。それはつまり、


(今が、絶好のチャンスじゃないか……っ!)


 ドクッ……ドクッ……。


「み、瑞樹っ!」

「はい、なんですか?」

「これを……これを見てくれ!」


 ワタシは、ポケットから出したプリントを瑞樹に渡した。


「? へぇー。試合ですか?」

「あ、ああぁ。と言っても、この地域だけの小さな大会だがな」


 本当は、もっと細かい説明をしたいところだが。


 ……緊張しすぎて、それどころじゃない!! 言う前に一度、深呼吸を挟むか?

 いや、それをしている間に、あの二人が帰ってきたらどうする!?


 ……ゴクリ。


 考えれば考えるほど、答えが遠のいていく。……そんな気がした。


「……じ、実は、お前に……見に来てほしいんだ……っ」

「試合を、ですか?」


 緊張によってうまく言葉が出てこなかったため、コクリと頷いた。


 ドクッ……ドクッ……。




「いいですよ」




 ………………………………………………………………。


「えっ。ホントか……ッッッ!!?」

「はいっ」

「…………っ!!」


 言って……よかったー……。


 心の中でホッと息を吐いていると、


「あの、試合の日っていつなんですか?」


 あ。


「それが、その……明日なんだっ!」

「え? ……あ、明日?」


 なんだ、今の反応?


「もしかして……都合が悪いのか……?」


 そう言って思わずシュンとなると、瑞樹が慌てて声を上げた。


「も、もちろん、大丈夫ですよっ!」

「!! なら、いいんだ……っ」


 ワタシは、自然体を装って瑞樹から顔を逸らすと、


(えへへへっ……)


 これでもかと言わんばかりに、頬を緩めたのだった。




 その後はというと、いつもは仲が悪い二人が、


「「~~~っ♪」」


 ニヤニヤしながら、並んで席に座っていたのだった。




 ――ど、どうしよう……。

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