第34話 それぞれの夜 -つばさ&瑞樹の場合-

「ふぅ……。気持ちよかった……っ」


 ワタシは、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、ベッドのふちを背もたれにして腰を下ろした。

 そして、ボディークリームを太ももやふくらはぎに塗り、マッサージを始めた。

 点取り屋である以上、何度も飛ぶことになるのだが。

 そうなると、試合経過につれて足に疲労が溜まることになる。

 このマッサージは、それによって足がつらないために、毎回欠かさず行っている。


「~~~♪」


 これをしている間が、ワタシにとってのリラックスタイムなのである。


(明日の試合のためにも……念入りにやっておかないと……っ)


 両足を交互に十分ずつ行い、マッサージを終えた。

 準備は万端。あとは明日を待つだけだ。

 いいところを見せて……ワタシは…――


「ふ、フフフッ……フフフフッ……」


 一人だけの自室に、不敵な笑い声が響き渡っていたのだった――。




「は……はっくしゅん!!!」


 くしゃみの音が、部屋中に響き渡った。

 誰かが、僕の噂をしているのかもしれない。

 ……さすがに、そんなわけないか。


「……うぅーん……っ」


 僕は頭を抱えながら、机の上に並べた二枚のプリントに、目を向けた。

 その二枚に共通していることがあるとすれば、大きな『大会』の文字だろう。


(さてと……これはどうしたものか……)


 両方とも開始時間が異なるのだけど。問題は、両方とも本番が明日だということだ。

 せめて、どちらかが一日でもズレていてくれたら……。

 まあ、唯一の救いと言えば、開催場所が両方とも同じ敷地内ということだろう。

 二人の試合が同じところで行われるなんて……。


(ラッキーと言えば、ラッキーかな)


 それにしても、行き来しやすいところでよかったー……っと言いたいところだけど。

 もし、片方しか行かなかったら……どれだけ怒られるのか。

 それを想像するだけで……


 ブルブル……ッ。


(明日は、気合いを入れて行かないと……っ!)

 

 ある意味、二人以上に闘志を燃やしていたのだった――。

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