第23話 ……先輩たち

 そんな経緯があって、今に至る。


(それにしても……ここに隠れたのは失敗だったか……?)


 認めたくはないが、教卓の下は……


(――――狭いッ!!! 狭すぎる……ッ!!)


 体を縮こまらせれば、なんとか入れるギリギリの状態だった。


 ドキドキ……ッ。ドキドキ……ッ。


(ヘタに動けないし……動いたらバレる可能性があるし……)


 今、敢えて出て行くことも考えられるが、


『貴様っ! そこでなにをしている!!』

『そう言うお前こそ、そんなところでなにをしていたんだ?』

『先輩?』


 ……確実に怪しまれるからなしだ。


(頼むから……二人とも早く出て行ってくれーーーッ!!!!!)


 そんなことを知るよしもない二人はというと、


「じ、実は……急に部活が休みになってだな……」

「あっ。だから、グラウンドに誰もいなかったんですね」

「ああぁ……。それで……どうせなら、お、お前と一緒に……帰ろうと思って……」


 モジモジしながら話すその様子は、まさに子どもそのもの。


「なるほど……グラウンドにいなかった理由はわかりました。でも、どうして、僕の体操服に…………か、顔を埋めていたんですか?」


「ッ!!? ああぁ……そ、それはだな……」

「それは?」

「…………っ」

「……はぁ。とりあえず、それを返してください」

「す、すまん……あ、いや、洗って返す!」


 そう言って体操服を抱きしめた秋に、瑞樹がじーっとした視線を向けていると、


「…………あれ? 先輩、ズボンはどこにあるんですか?」


 ――ギクッッッッッ!!!???


「ズボンだと?」


 二人は周りを見渡しが、ズボンらしきものはなにもなかった。

 それもそうだ。今……ワタシが持っているのだから……っ。


「あたしが来たときにはなかったぞ……?」

「え? ……本当ですよね?」

「ほ、ほんとに知らないんだっ! というか、なんだその目は!!」

「へぇー」

「くっ……」


 特殊な状況ということもあって、言い返すことができないようだ。


 くそっ……。ちょっぴり興味本位で手に取った数分前の自分に文句が言いたい……っ!


「じゃあ、どうしてないんでしょう?」

「あ、あたしに聞くな!」

「………………………………………………………………」

「っ…………あ」

「?」

「……こ、この状況で聞くことではないかもしれないが、お前に……聞きたいことがあるんだ……っ」

「聞きたいこと、ですか?」

「あ、ああぁ。その……あいつのことはどう思ってるんだ?」

「あいつ?」

「……あ、あの金髪女のことだよ!」

「金髪女? それって、もしかして凛堂先輩のことですか?」


 ――――――…!!?


 あ、あの女! 話を逸らすためにワタシの名前を使ったな!?


「ど……どう思っているんだ?」

「どうって言われても……」


 ドキッ……ドキッ……。


 ワタシは、一言も聞き逃すまいと瑞樹の声に耳を澄ませる。


「とても……頼りになる先輩ですっ」


 ……あ、アイツ……っ。

 顔が熱い……。頭もぼーっとしてきた……。


 瑞樹の言葉が嬉しすぎて、火照ってしまったのかもしれない。

 今にも抱きしめに行きたい衝動を、必死に堪える。


「頼りになる……そうか……」

「武藤先輩?」

「あたしは……その………………お前にとって、頼りになる先輩か?」

「? そんなの当たり前じゃないですか」

「!? ほ、本当か? 本当に本当か?」

「はいっ。先輩にウソなんて言いません」

「っ!! あ……あの女以上かッ!?」

「え?」

「あの女以上に頼りになるのか、あたしは……っ!?」

「どっちが上とか、比較なんてできませんよ」

「っ。あたしは……教えて欲しいんだっ! どっちが……お前にとって……」


 アイツ……なにを言うつもりだ……?


「先輩……?」

「…………っ」


 この雰囲気………………まさかッ!!




 ――ゴンッッッ!!!!!




いったあああああああぁぁぁッ!!」


 い、痛すぎるッッッ!!

 頭……割れたんじゃないか!?


 涙目になりながら、短パンを持った手で頭を押さえた。

 どうやら慌てて立ち上がろうとして、教卓に頭をぶつけてしまったらしい。


「うぅぅぅ~…………っっっ」


 ドジだな……こんなときに限って……。


「――――…せ、先輩?」

「…………ん?」


 声のした方を見ると、


「「………………」」


 突然の大きな音に驚いた二人がこっちを見ていた。


 あ。


「そ、そこで……なにをしていたんですか……?」

「!!? こっ、これはその……っ!!」

「あああああーっ!! それ瑞樹のズボンじゃねぇかッ!!」


 お、終わった……。




 その後。


「「………………」」


 二人は手に体操服を持ったまま、反省した顔で並んでいた。


「……先輩たち」

「「ご、ごめんなさい……」」


 それからというと、


(さぁ~てと、そろそろ見に行こっかな~♪)


 様子を見に奈緒がやって来るまで、教室には気まずい空気が流れていたのだった。






―――――第五章へと続く―――――

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