第22話 ば、バレた……

 遡ること、数十分前――。

 瑞樹と別れた後。


(よぉ~しっ! やるぞぉおおおおおっ!!!)


 ワタシが意気揚々と部活に励もうとしていた矢先に、


「――ハァァアアア~??? 今日の部活はこれでお終い~?」


 更衣室に戻されたワタシは、チームメイトからまさかの連絡を伝えられた。


「どうしてだ? こんなにもやる気に満ち溢れているというのに……っ!」

「まあまあ、落ち着いてー」

「落ち着いていられるかッ!!」


 今なら、超究極ハイマットフルバーストサーブパート1が打てる気がするのに……。


「一体、なにがあったんというんだ?」

「さあ。細かいことは教えてもらえなかったから……」

「そ、そうか。……あ、監督はなんと言っているんだ?」

「部長に任せるって言っていたけど」


 部長、だと……?


「――私を呼んだか? 呼んだな? いや、絶対に呼んだな!」


 更衣室の奥から聴こえてきた、声量が大きくて力強い声。


「ぶ、部長……いつの間に……」


 振り返って“見上げると”、女子バレー部部長で三年の冴桐さえぎり刀華とうかが、膝に手を置いて仁王立ちしていた。


「ムッフッフーッ! まあ落ち着きたまえ、つばさくんっ!」

「いや、アンタが落ち着きなさいよ」

「私? 私はいつ通りだけど~?」

「…………っ」


 百八十五センチの長身から見下ろされると、やはり貫禄が違う。

 部で一番背が高いから余計に。

 ちなみに、次に高いのが…………ワタシだったりする。


「はいっ! 部員諸君っ、注目~~~~~っ!!」


 手をパンパンッと叩くと、全員の視線が向けられた。


「今日の部活は~~~~~………………これで終わりだあああああッ!!!」

「「「「「「………………」」」」」」


 女子バレー部の練習は、女子陸上部と並んで厳しい部類に間違いなく入る。

 それは、部員たちが誰よりも知っているのだが。


(なにを言うかと思ったら……はぁ)

(彼氏と遊びに行きたいだけでしょ?)

(彼氏かぁー。羨ましいぃぃぃ~)

(“あの”部長に彼氏ができて、どうして私にはできないわけ?)

(噂だけど。向こうから告白されたらしいよ……)

(マジ!? へぇー、モノ好きな人も――)

(ねぇ~。みんなだけ心の中で話し合うの、ズルくな~い? 私も混ぜてよ~♪)

((((((……ッ!? き、聞かれていた……!?))))))


 ……。

 …………。

 ………………。


 そんなこんなで、急遽、今日の部活が休みになったのだけど。

 スプレーを使う機会は持ち越しとなり、尚且つ体を動かせない、この消化不良な感じ。


(走って帰るか…――瑞樹は、もう帰ったのかな……)


 メッセージのやり取りから時間が経っているだけに、帰宅しているのはまず間違いない。


「………………」


 そのとき。なにを思ったのか、ワタシは瑞樹の教室へと足を運んだ。

 扉を開けて中を覗いたのだけど。そこには予想していた通り、誰の姿もなかった。


(さすがにいないよなー。しょうがない。今日はこのまま走って――)


 扉を閉めようとした、そのとき。


「……ん?」


 机の上に置かれていた“あるもの”に目が止まった。

 理性の赴くまま瑞樹の席に来ると、


「これは…………体操服?」


 丁寧に畳んで机の上に置かれた体操服を見つけたのだ。


(忘れて帰ったのか? 意外とドジなところがあるんだな)


 そういうところも、それはそれで……ハッ! もしかして、これを届けるという名目で部屋にお邪魔して……あわよくば……っ。


 乙女の妄想は場所を選ばず、何時いついかなるときも発動する。


「…………フッ」


 ――チラッ、チラチラッ。


 ワタシは、誰もいない教室を見渡すと、体操服を手に取った。……取ってしまった。

 べ、別に深い理由があったわけじゃない。


「ただ……そう! 興味本位で持ってみたいと思っただけだ!」


 なに言っているんだ、ワタシは……っ。

 女子バレー部のエース様も、理性には抗えなかったらしい。

 自分で言うのも情けないけど……。


(…………戻そう)


 そう思った瞬間、廊下から歩く音が聞こえたため、急いで教卓の下に身を潜めた。


(誰だかは知らないが、いなくなるまでここでやり過ごすしか…――)


 ――ギュッ。


(ん? この感触は…………)


 慌てていたこともあって、あろうことか、体操服の短パンの方を持ってきてしまったのだ。


 ま、まずい……。


「瑞樹ーっ。いるかー?」


 ……ん? 今の声は…――


「さすがに帰っているか。奈緒の奴、瑞樹が教室にいるって言っていたのに……ッ」


(武藤秋!!? どうしてあの女がここに……ッ!?)


 ………………。


 万が一、あの女よりも前に来ていたことがバレたら……


『あはははっw いくら瑞樹のことが好きだからって、普通、体操服に手を出すかよw』

『先輩がそんな人だったなんて……』

『こ、これは違うんだッ!!』

『先輩、見損ないました。――――…さようなら』

『瑞樹……瑞樹ぃぃいいいいいーーーーーッ!!!』


 ブルブルブル……ッ。


(まずい……っ!! 本当にまずい……っ!! それだけは……って、あの女、あそこでなにをしているんだ……?)


 バレないように教卓からひょっこりと顔を出すと、


「瑞樹の奴、畳みもしないで置いていきやがって……っ」


 ――チラッ、チラチラッ。


 あっ。誰もいないのを確認してから……机の上にある体操服を……


「しょうがない奴だなぁーっ!」


 手に……取っただと……ッ!?

 まさに、数分前の自分と全く同じ行動だった。

 それが、なんだか無性に腹が立つ。


(あの女……なんてことを……ッ!! サイテーだなッ!)


 ……まあ、ワタシが言えた義理ではないのは、確かなのだがな……。

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