第21話 バレた……

 更衣室で別れた後。帰り道を進んでいると、


 ブゥッ、ブゥッ。


(凛堂先輩……? なんだろう……?)


 足を止めてトーク画面を開いた。


『スプレー、サンキューな! このお礼は必ずするから、楽しみにしていてくれ!』


 文章を見るだけで、先輩の喜ぶ表情が目に浮かぶ。


『はいっ。部活、頑張ってください!』


 と送信してから既読が付くと、十秒もしない内に、


『任せておけ!』


 なんとも頼もしい一言が返ってきた。


「…………ふふっ」


 気分がいいのか、僕は軽い足取りで帰り道を進んだ。




「~~~っ♪」


 ああ~っ、今日はなんていい日なんだろう~っ。

 近くに人がいなかったら、スキップしていたかもしれない。


 ………………。


 周りをチラチラッと確認すると、


(ちょうど人もいないし……ちょっとくらい……っ)


 ぴょんぴょんと恥ずかしさ込みの軽いスキップをすると、


(帰りにアイスでも買って帰ろうかな~っ。ここからコンビニまでランニングしてもいいな~)


 ……いや、今日は体育の授業で走ったから、それはまた今度ということで…――


「――あ」


 跳ねていた足をピタッと止めると、肩にかけていたカバンを見た。

 そういえば、朝のときよりなんとなく軽いような……。

 お弁当を食べたからと言って、果たしてそこまで重さが変わるだろうか?

 疑問符を頭に浮かべながら、カバンを開けて中を見てみると、


(……あれ? 体操服が……ない?)


 どうやら、カバンに入れたつもりになっていて、教室に置きっぱなしのまま出てきてしまったらしい。


「し、しまった……」


 ここは、家と学校の間のちょうど中間点。


(戻るなら今しかないか……)


 明日学校があるとはいえ、さすがに匂うよね……。体育の授業で外を走っていたから、余計に……。


「はぁ……」


 しょうがない、取りに行こう。


 ……。

 …………。

 ………………。


 来た道を戻り、昇降口でパパッと靴を履き替えると、


「次からは気をつけないと……」


 と反省の言葉を呟きながら、階段を上がって教室のある階まで戻ってきた。

 そういえば、グラウンドに陸上部の人たちの姿がなかったなー。


(もしかして、今日はなかったのかな?)


 でも、それなら戻って来る途中でバッタリ会うはず。


「うーん……まぁ、いっか」


 ガラガラガラ……ッ。


 扉を開けて中に入ると、




「すぅうううううううー……っ♡♡♡♡♡」




「………………え?」




 自分の席に、女の子が座っていたのだけど。

 ただ座っているのではなく………僕の体操服に……顔を埋めていた。


「はああぁぁぁぁぁ……っ♡」

「………………」


 目の前の光景を、僕は呆然と見つめることしかできなかった。

 すると、こちらに気づいたのか、女の子はゆっくりとこちらへと顔を向けた。


 ――その顔には……見覚えがあった。なぜなら、




「……そ、そこで、なにをしているんですか――――――…武藤先輩……」

「えへへっ…………あ」




 ………………………………………………………………………………。




「み……瑞樹……ッ!? どど、どうしてお前が……ここに……っ」

「体操服を取りに戻ってきたんです……。今日、体育があったので……」

「そ、そう……なのか……っ」


 キョロキョロと動く目。

 プルプルと震える手。

 アワアワと開く口。


「……それ、僕の体操服ですよね……?」

「!!? き、聞いてくれッ! これには深い訳があってだな……っ!?」

「……深い訳?」

「あ、ああぁ……っ。えーっとだな……」




 そんな二人のやり取りを、


(ま、まずい……っ)


 と心の中で呟きながら、教卓の下に隠れて聞いている少女が一人。


(こ、これは……どうすればいいんだ……っ?)


 会話を聞く、その手には…………“体操服の短パン”が握られていた。

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