第19話 知られたくなかった、ヒミツ

(……なにも……見えない……)


 視界を埋め尽くすのは、真っ暗闇の空間――。

 なにが起きているのか、今の僕にはわからない――。


(唯一、わかることがあるすれば……凛堂先輩と一緒に片付けをして……。それで、僕が出ようとしたら、突然、先輩が倒れ込んできて…――)


 ――――――んッ!?


 顔が、なにかに押さえつけられていて……い、息が……できない……っ!?


「ンン……ッ!! ンン……ッッッ!!!」

「イテテテ……」


 先輩の声が……いつもより……近くに……。

 それに……この匂いは……。




「すっ、すまない……っ。大丈夫か……?」


 横を向くと、視界に入ったのは、黒くてサラサラしたものだった。

 顔に当たって妙にこそばゆい。


(なんだ、これは…………って、な、なな……ッ!!?)


 今起きている状況を理解した瞬間、ワタシは目を疑った。




 ――床に倒れた瑞樹に覆い被さる形で、自分の『脇』を押し付けていたのだから……。




「――――…!!? み、瑞樹……ッ!?」

「んんんんッ! んんん!! んんんんんッ!!!」

「ッ!! や、やめろ……! くすぐったい……っ」


 慌てて離れようとしたが、鼻息が当たって……うまく力が入らない。


「んんんんッ! んんん!! んんんんんッ!!!」

「ひゃぁ……っ! んん……っ」


 十六年間生きて、脇が弱点だったことを初めて知った瞬間だった。

 一方、瑞樹の方はというと、口を塞がれた状態で必死に訴えていた。


「んんんんッ! んんん!! んんんんんッ!!! (先輩っ! 息が!! できませんッ!!!)」


 …………っと。


「っ……くっ……」


 それからなんとか起き上がると、足元にあったロープに目が止まった。

 どうやら、床に落ちていたそれに足が絡まってしまい、瑞樹の方に倒れ込んでしまったようだ。


「ハァ……ッ。ハァ……ッ」


 解放された瑞樹は、うまく息ができなかったからか、目一杯息を吸っていた。

 よ、よりによって……脇を押し付けてしまうなんて……。


「…………っ」


 体育の授業からずっと体を動かしていたから、脇は汗で……。


「け、ケガは……ないか……?」

「ハァ……ッ。ハァ……ッ。はい……特には……」

「そうか……」


 瑞樹はゆっくり体を起こすと、ワタシの顔をじっと見てきた。


 思い詰めた、その顔を――。


(先輩……震えている……?)




 ………………………………………………………………………………。




「あの、先輩…――」

「ほんとにすまなかった……臭かっただろ……?」

「!! い、いえ……」


 むわぁぁぁ……っと、蒸れた匂いがしただけです。

 ……なんて、言えるわけがない。


「……実は、汗をかきやすい体質でな……っ。ちょっと運動しただけでもすぐに汗をかいてしまうんだ……。そのせいで、昔はよくからかわれたものだ……」


 キーンコーンカーンコーン。


「………………」


 体育館に予鈴よれいのチャイムの音が響き渡ったが、


「先輩……」


 本鈴のチャイムが鳴り響くまで、ここだけが、時間が止まったかのように静まり返っていたのだった。

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