第七章だっ!
第38話 雨降る日、食堂にて
ザァァァアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッ。
鳴りやむことのない轟音が、否応に耳に入ってくる。
「はぁ……」
週末明けという……ただでさえテンションが低い日だというのに……。
外はどしゃ降りの雨……。
(……先輩……大丈夫かな……)
先輩が走り去った後。たまたま近くにいた凛堂先輩と一緒に、
陸上部のエースに追いつけるわけもなく……。
『ハァ……ハァ……』
『なにをしている!! 急げ!』
『ハァ……ハァ……』
『クッソ! なんなんだ、アイツは! 速すぎるだろ!!』
凛堂先輩ですら追い付けないのだから、僕が追い付けるわけがなかった。
(……あのとき、先輩……)
――――…泣いていた。
泣いてしまうくらい、決勝にかける想いが強かったんだ。
(今は……そっとしておこう……)
キーンコーンカーンコーン。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、クラスメイトたちが各々動き始めた。
この前の腹痛のこともあるし、トイレに行っておこうかな。
そう思い、席を立とうとしたとき、スマホに通知が届いた。
『昼休みに全て白状してもらうからなッ!!!』
なにかと思って見てみたら…………
『瑞樹……まあ、頑張れっ♪』
なにを頑張れって言うんの……!?
「あははは……はぁ……」
ため息とともに、僕はトイレに向かった……。
昼休みの食堂――。
「………………」
テーブルを挟んで、凛堂先輩と姉さんがじーっとこっちを見ていた。
ちなみに武藤先輩は、ここにはいない。
一人になる時間が欲しかったのか、別の場所で食べることにしたようだ。
「瑞樹~っ。覚悟はできているんだよね~?」
「時間もないんだ。さっさと事情を説明してもらおうか?」
「……な、なにをですか……?」
プルプル……っ。
「しらばっくれても無駄だぞ! ワタシは、この目で見たんだ! お前が……あ、あの女を…………ッッッ」
プシュウウウウウ~……ッ。
「っ……へっ? 凛堂先輩?」
「お前が……あの女を……」
――ガクッ。
力尽きたように、凛堂先輩はテーブルに
「ありゃりゃ~。興奮しすぎてのぼせちゃっているよ」
「うぅぅぅ……」
姉さんは、そんな先輩の肩をツンツンと突いたが、反応が得られず「はぁ~」と息を吐いたのだった。
「しょうがない。つばさなんてほっといて、私“だけ”に教えて~♪」
「ちょっと待て! 『つばさなんて』とはなんだ!」
「おぉ~。さすがの回復力。じゃあ~……」
――チラッ。
…………あ。
「いつまで黙っているつもりなのかな〜?」
「……お前には、聞きたいことが山ほどあるんだ……ッ!」
この二人を前にして、口を閉じていられるわけもなく。
「えっと……」
……。
…………。
………………。
「――ということなんです……」
僕は、二人に事の経緯を包み隠さず説明した。
ちなみに、話しているときの凛堂先輩の顔は、それはもう……。
すると、話を聞き終えた凛堂先輩がジト目でこっちを見てきた。
「まさか……」
――ビクッ!
内心、身構えていると、
「……あいつと同じところで試合をしていたなんて。どうして黙っていたんだ?」
「えっ。そ、それは……っ」
てっきり、怒られると思っていたのだけど。
「どうなんだ?」
「…………っ!!」
先輩……そのことについては……い、言えないんですよね……。
「言っちゃいなよ~? 隠してもいいことないよー?」
「で、でも……」
「言えッ! さもないと……」
「――――ッ!!?」
さもないと……なんですかっ!?
この言葉の続きが気になるところだが、
「………………」
鋭い視線が向けられていることもあって、想像するのは止めた。
話すしかない、か……。
「……わかりましたっ」
一度、深呼吸をして頭を落ち着かせると、僕は恐る恐る言った。
「せ、先輩たちが、会うたびに喧嘩するから……どうしても言いづらくて……っ」
ドキッ……ドキッ……。
どういう反応をするのかわからず、じっと返答を待っていると、
「……ケンカだと? いつのことだ」
「…………はい?」
もしかして、自覚がない……?
当の本人である先輩はというと、何のことかわからず、首を傾げていた。
……毎回、喧嘩を止めるこっちの身にもなってほしいものだ。
「いつも言い合っているじゃないですかっ」
「いつもだと? ……あっ。そ、それは……」
「? それは?」
「…………っ」
ん? この反応は……。
「っ……お、お前のことを……想って……」
「僕?」
「!! こ、この話はここまでだッ!!」
「えぇー」
「えぇーじゃない!」
「あのーっ。いい雰囲気のところ悪いんだけどー」
「ど、どこがだ……っ!? というか、なぜ途中から黙っていたんだ!」
「あぁ~はいはいっ。ねぇ、瑞樹」
先輩を軽く受け流すと、姉さんはいつもは見せない真剣な顔をこっちに向けた。
「…………っ」
その迫力に思わず息を吞むと、
「さっきの話に戻るけど、秋はどうして泣いていたの?」
「それは……試合に、負けたからじゃないかな……。先輩、自信満々だったから……。きっと、ものすごく努力したんだと思う」
「………………」
「姉さん?」
「それもあると思う。でも、たぶん違う」
と小さな声で呟くと、
「瑞樹。大会が終わった後、秋になにか言った?」
「え? なにって、『優勝できるように、ずっと応援しています!』って言ったけど……」
そういえば、それを言った後に先輩…――
「はぁ……。今の話を聞いてわかっちゃった」
「なにが?」
「秋が泣いたのは…………瑞樹、あんたのせいよ」
「言いたくはないが…………瑞樹、お前が悪い」
………………………………………………………………………………。
「え、ええぇ……っ!?」
「その反応……自覚なかったんだ……」
「自覚もなにも……っ。僕、なにかまずいことを言っちゃったのかな……」
「……そういうところだぞ?」
「どういうところなんですか……っ!!」
思い出そうにも、自分の言動に引っ掛かる部分が見つからない。
(うーん……)
腕を組んで考え込んでいると、それにしびれを切らしたのか、姉さんが大きな声を上げた。
「ああぁもう!! 放課後になったら秋を更衣室に呼び出すから、一人で行って来いっ!」
「なッ!? おいっ、奈緒! 一体、どういうつもり――」
「落ち込んでいる親友をなんとかしてあげたいの。だから……お願い」
そう言って、頭を下げてきた姉さんの行動に驚きを隠せない凛堂先輩はというと、
「っ……ま、まぁ、アイツのしょんぼり顔なんて見ていたら、こっちまでおかしくなりそうだからなっ!」
「うんうん。あんな秋、見ていられないよねーっ。ねっ?」
「…………っ!!」
二人の圧に押された僕には、『頷く』以外の選択肢はなかったのだった。
「……わ、わかったけど。僕が行ったからといって――」
「とにかくっ! 放課後になったら更衣室に行くことっ! OK?」
「う、うん……」
「声が小さい!!」
「イエッサー!」
「うむ。よろしい」
キーンコーンカーンコーン。
まるで待っていたかのように、チャイムが鳴り響いたのだった。
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