第三章だっ!

第11話 恋する乙女の闘い? -1-

 その闘いは、突然始まった――。


「第一種目――――『腕相撲』! レディー…………ファイッ!!!」

「「ぐッ……ぐぬぬぬぬ……ッ!!!」」


 場所は、教室の一角。

 観衆クラスメイトの視線が向けられる中、彼女たちは闘う。

 全ては、愛する者のために……。


「火花が散る! 少女が叫ぶ! あいつのことが、『大好き!』と――」

「奈緒、黙れえええええええーっ!!!」

「邪魔をするなああああああーッ!!!」

「これは失敬、失敬っ」


 平謝りしているその内心はというと、さっきからニヤニヤが止まらなかった。


(ふふふっ……)


 昨日、電話をしているときに出した、この提案。


『瑞樹の部屋にお邪魔する権利(敗者の邪魔を禁じる)』


 二人には、この権利を懸けてお互いの得意なスポーツで対決してもらうことになった! ……のだけど。

 二種目だけでは引き分けになってしまう可能性があるため、この腕相撲をすることに決めたのだ。

 こうすれば、間違いなく勝敗が決まる。

 夢のような空間(瑞樹の部屋)に入れるのだから、あの二人がこの提案に乗らないわけがない。


 すると、案の定、


『やらせろッ!! あたしが絶対に勝つ!』

『そんな権利があるのか……フフッ。面白い!』

『じゃあ決まりだねっ♪』


 二つ返事で対決が決まり、そして――


「「ぐぐぐぐッッッ……!!」」


 対決の日を迎えたのだった。


「そろそろ……っ、を上げたらどうだ……?」

「その言葉……ッ、そのままそっちに返してやろう」


 腕相撲をしながら平然とした顔で会話を交わす二人。


(それにしても……ビクともしないなー……っ)


 握られた手が中心からピクリとも動かないのは、力が拮抗しているからではない。


 ……ゴクリ。


 実際は、二人の高度な駆け引きが――


「そういうのを……往生際が悪いって言うんだぞ……ッ!! 知らなかったのか〜?」

「フッ、意外だな。まさか貴様がそんな言葉を知っていたなんてな!」


 こ、高度な……


「な、なんだとおおお……!?」

「フフッ。どうした? さっきから肩がプルプルと震えているぞ?」

「お前の方こそ、汗ダラダラじゃねぇか! ビビってんのか~?w」

「キッ、貴様アアアアアーーーッ!!!」


 高度な……まあ、いっか。


「さあ! 勝利の女神はどちらに微笑むのか~~~~~ッ!!?」

「「ふぬぬぬぬ……ッ!!!!!」」


 お互いに一歩も譲らない白熱した戦い。その結末は――




 キーンコーンカーンコーン。




「両者、そこまでっ! この対決は、ドロー!」

「「…………っ!!」」


 固く握られた両者の手を抑えると、二人の鋭い視線が同時に向けられた。


「なぜ止めたんだ!?」

「そうだっ! まだ決着は――」

「二人とも、周りを見てごらん」

「「ん……?」」


 二人は周りを見渡すと、クラスメイトたちが各々の席に戻り始めていた。


「もうそんな時間なのか?」

「早すぎるんじゃないか?」


 アドレナリンが出まくっている状態の二人には、どうやらチャイムの音が聞こえていなかったようだ。


「くっ……いいところだったが、しょうがねぇ」

「……わかった。放課後にまた会おう」


 そう言って二人は目を合わせると、けもののようにお互いを威嚇し合っていたのだった。


『ガルルルル……ッ』

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