第6話 乙女の協定

 ある日の昼休み――。


 校舎裏の木の下に、二人の少女の姿があった。


「ほほぉ~っ。私の『弟』である瑞樹に興味があると?」

「そ、その通りだ……っ」


 凛堂りんどうつばさ。

 隣のクラスである彼女のことは、よく知っている。

 体育の授業を一緒にしているからということもあるのだけど。

 単純に彼女が“有名人”だからだろう。廊下を歩いていると、自然と名前が耳に入ってくるし。


「どうして私に? 瑞樹に直接言えば――」

「そ、それができるのなら、もうとっくにそうしている……っ!!」


 まあ、それもそっか。


「できないワタシが……不審がられずに近づくには、お前の力がどうしても必要なんだ!」

「なるほど、なるほど。それで?」

「だ、だから……」


 徐に頭を下げると、


「この通りだっ、頼む……!」


 彼女は、四十五度のキレイすぎるお辞儀をした。

 真剣で、本気で、全力だということは、それだけでも伝わってくる。

 

 ――でも。


「気持ちはわかったけど。それだけじゃ足りないかなー」

「なッ!? ワタシに、一体、なにが足りないと言うんだ!」

「……凛堂さん。あなたは、瑞樹の“恋人”になりたいから、私に協力してほしいんでしょ?」

「恋人……っ!!  ……そ、そうだ……っ」


 おぉ~おぉ~っ。恋する乙女の顔になってるぅぅぅ~♪


「なら、その気持ちを言葉にしてくれないとねぇ~?」

「あ、ああぁ、そうだな……」


 と言うと、真っ直ぐな瞳でこっちを見た。

 だが、それとは裏腹に、震わせた声で彼女は言った。


「わ、ワタシは……っ! あい……アイツのことが……っ!!」


 プシュゥウ~……。


「アイツの……ことが……」


 プシュゥウウウ~……。


「ううぅぅぅ……っ」


 恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、頭から見えない煙が天高く上っていた。


(……ふふっ。“あっち”と似ていて、こっちも面白いかも……っ♪)


 二ヤついてしまいそうになるところをなんとか堪え、私は手を差し出した。


「高く付きやすぜぇ~。だんな~っ♪」

「っ!! 背に腹は代えられんっ! ……よろしく頼むっ!!」

「そこまで言われちゃぁ~しょうがねぇ。この朝香奈緒、人肌脱ぐとしましょう~やぁ~っ!」


 二人は熱い握手を交わした。

 このとき、二人の間に同盟が結ばれたのだった。




(さぁ~って、面白くなってきたぁぁぁ~~~っ!!! まさか、瑞樹と秋の恋模様にライバルが登場するなんて……っ! くううぅぅぅ~~~!!! 楽しみ~~~っ♪)




 恋の三角関係の始まりだぁあああああーーーっ!!!!!

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