第5話

 その頃、レイウェンたちは総出でリリアのことを探していた。

「レイウェン、北西の方でそれらしき人がいたらしいよ」

 一番に部屋に戻ってきたのは、サラだった。レイウェンは、皆の報告を待ちながら、溜めていた公務を片付けていた。続いて、クウとテイラーも窓から入ってくる。

 《こっちも北西の丘にある城が忽然と消えたという話が噂されているようじゃ》

「その森の動物たちが言うには、空気が急に悪くなって、住みづらくなったって……」

「そうか。北西というとカリマンダ城あたりか?」

 エドワードも姿を現し、横から口をはさむ。レイウェンは書棚から地図を取り出し、他の者も机の周りに集まってきた。エドワードは何やら分厚い紙の束を手にしている。

 カリマンダ城は、アックア国とフォンセ国の領地の中間地点にあたる所だ。

「この辺りは、確かもう誰も住んでいないはず」

「根城にするには、もってこいの場所だな」

 エドワードが紙の束をめくりながら、地図と見比べる。どうやら、領地に関する書類を持ってきたようだ。

「でも、確かここって……」

 テイラーの言葉に、皆の顔色が曇る。

 リリアの居場所に目星がついたのはいいが、問題が一つあるのだ。

「帰って来れるか分からない魔の城」

 森が複雑に入り組んでいて、道が魔力によって変わってしまうため、一度入ってしまうと出ることができなくなると言われている城だった。

「だけど、ユエの羽があるし、空から攻めれば問題ないさ」

 突然、部屋の中で風が巻き起こり、アイリスとフライが姿を現した。

「結界が張られていて、外からは見えないようになっている場所があった。ちょうどカリマンダ城あたりだ」

 アイリスが簡単に調査報告を述べる。

「ああ、やはりそうか。けど、結界が張られていて、空から攻められるのか?」

「結界の綻びを見つけられればね」

 レイウェンの質問に、アイリスは地図に指で円を描きながら、説明した。

「大きい結界ほど、実は綻びが生まれやすい。中心に力を注ぎ込む故に、端の方の魔力は弱まっていたりする」

 彼女の指が森の端の方に動く。皆の視線も一緒に動いた。

「ユエの羽があれば、魔力に吸い寄せられて森からユエのいるところまでは辿りつけるはず。さらに、上からその動きを見れば、どこが結界の力が弱い所なのかある程度の目星はつけられる」

「なるほど」

 レイウェンは、アイリスの説明を聞きながら、頭の中でどのように動くのが良いか、考え込む。しんと部屋が静まり返った。

「イチかバチかだが……。やってみるか?」

「可能性があるなら、やるに一票だな」

「もちろん!」

「異論はないです」

「リリアを助けたい……」

 皆、レイウェンの言葉に同意を示す。それを聞き、口元が自然と綻ぶ。

「決まりだな。リリアを救出する作戦会議を始めるよ」

 レイウェンの口から告げられた作戦に、誰もが目を輝かせたのだった。

 作戦会議が終わり、レイウェンは執事のモーリーにミリアを呼んでくるように伝える。

 程なくして、ミリアが緊張した面持ちで部屋に入ってきた。

「レイウェン様、お呼びでしょうか」

「ああ。ミリアさんにしか頼めないことをお願いしたい」

「私にできることであれば、何なりと」

 背筋を伸ばして返事をする彼女に、レイウェンは苦笑する。

「そんなに緊張しないでください。必ずリリアを連れて帰りますから、温かい風呂と食事の支度をして待っていてください」

 ミリアは力強くうなずいた。微かに安堵しているように見える。

「リリア様の大好物を用意して、お待ちしております。———どうか、無事にお帰りくださいませ」

「ああ、もちろんだよ」

 玄関までモーリーたちと一緒にミリアも見送りについてきた。

 外ではすでに、準備を整えた面々が揃っている。モーリーから帽子とステッキを受け取る。

「旦那様、お帰りは」

「明日には戻る。早ければ、今日中にでも」

「かしこまりました」

「どうか、お怪我のないように」

「ああ。メル、モーリー、留守を頼んだよ」

 二人は、返事の代わりに深々と頭を下げた。その後ろでミリアも同じように頭を下げるのが見えた。

 レイウェンは、龍の姿をしたハクに跨る。

「みんな、行くぞ!」

 《御意》

 レイウェンのかけ声を合図に、一斉に皆が散り散りに飛び立った。

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