第七章 リリアの本当の力

第1話

 辺り一面が光に照らし出され、思わず目を瞑る。徐々に光が弱まっていくのを感じ、恐る恐る目をあけてみたら、目の前に大きな金色の羽を広げた長身で目が切れ長の美しい女性が立っていた。そこの空気だけが他とは違ってとても澄んでいた。

「ユエ……」

 ≪あるじ、ようやく記憶をすべて思い出せたようですね≫

 彼女は今までの倍以上に光り輝いていて、美少女のようだった容姿から美女に成長している。

 どうやら守護神たちの力は、主の力の大きさで身なりも変わってくるようだ。

 ユエがそっとリリアの頬に触れる。

 ≪これでやっと、あなたをしっかりお守りできます≫

 その言葉を聞くと同時に、リリアの中に様々な記憶が流れ込んできた。幼少期のレイウェンと過ごしていた思い出、六神たちとの触れ合い、そして十五年前のあの事件————。

 今まで失っていた幼い頃の記憶が全て思い出される。

「やっと全ての出来事が思い出せたわ……」

 心のどこかで、記憶を失って何も覚えていないことに罪悪感があった。ミリアやレイウェンがふとしたときに見せる寂しげな表情にリリアは胸を痛めていた。けれど、それも記憶が戻ったことでミリアやレイウェンにそんな表情をさせずに済むと思うとほっとする。

 リリアは、ダンの方へ視線をやる。

「どうして、そんな体になってまでこの世を彷徨っているの?」

「それは……」

 ダンは言いよどみ、部屋が沈黙に包まれた。だが、すぐにその沈黙を破る者が現れた。

「お兄様!」

 突然、部屋の扉が大きな音を立てて開き、黒いワンピースを身に纏った可愛らしい女性が仁王立ちしていたのだ。

「バイオレット……」

 女性の姿を見て、ダンは目を見開きながら彼女の名を口にする。

 ダンの妹である、バイヤード・セル・バイオレットだ。彼女は笑顔で、部屋にズカズカと入ってきた。

 ふと彼女の視線がリリアを捉え、驚いた顔をする。

「あら、あなたは……」

「なぁ、バイオレット。お前に聞きたいことがある」

 彼女が何か言いかけるのをダンが遮った。

 すぐさまバイオレットはダンの方へ顔を向け、わざとらしく小首を傾げた。

「なあに? お兄様」

 少しトーンが高めの猫なで声で彼女が返事をするのを聞いて、リリアは微かにキーンと耳鳴りがした。

 彼女の声に違和感を覚えつつ、彼らの会話に集中する。

「お前、リリアの両親を殺したのか? 十五年前のあの火事の日に」

 オブラートに包むこともなく、ダンは直球を投げ込んだ。彼の質問があまりに直球すぎたのか、バイオレットは口をあんぐりと開けてそのまま数秒固まった。

「……はあ? 何を急に言い出すの。なんで、あたしがそんなことするのよ? 突拍子もない質問すぎるわ」

「いや。小さい頃、お前と親父がよくコソコソと話していたところを見かけたことがあったなと思って。親父に何か唆されたとかじゃないのか?」

「まさか! まだ幼いあたしにお父様がそんなことする訳ないじゃない」

 心外だと言わんばかりに彼女は頬を膨らませて、怒りを露わにした。

 それでもダンは疑いの目で妹を見つめている。

「けど、お前は親父にかなり可愛がられてたよな? 何か聞いてたりしないのか?」

「はぁ……。お兄様って、本っ当におめでたいよね。お母様がお兄様ばかり可愛がるのも無理もないわ。こんなに無知で何も知らないんだもの」

「なっ……!? お前、どういう意味だ!」

 彼女は呆れたようにため息をつきながら、冷めた目で兄のことを見た。

「しょうがないから、無知なお兄様に教えてあげる。十五年前、そこのの親を殺したのは、あたしよ。でも、あれはお兄様のためを思って、私が代わりにアイツらを殺してあげたの。実質、お兄様も同罪でしょ?」

 さも自分の行動が正しかったかのように、バイオレットはさらりと白状する。彼女の開き直った姿にダンは何も言えなくなり、代わりにキャメロンが口を開いた。

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