第3話
レイウェンはモーリーに事情を簡単に説明し、すぐにアイリスたちのいる書斎室へ向かう。
リリアが敵の手に堕ちてしまったことを知り、ショックが大きい。
すぐ傍まで敵に侵入を許してしまったことも、自身の警戒の甘さに腹が煮えくり返りそうだ。
書斎室の前で一つ大きく深呼吸をしてから扉を開ける。皆の視線が一斉に集まる中、レイウェンはお気に入りのソファに腰かけながら、頭の中で状況を整理する。アイリスとフライは窓辺に立ち、サラとテイラーは伏せているクウの上に座って、黙ってこちらを見つめる。エドワードが口火を切った。
「それで、カルたち。結界の中で一体何があったんだ?」
クウとカルが代表して、リリアの身に起こったことを詳しく説明してくれた。
「思ったより早く、奴が動き出したな」
「まさか、敵に敷地内へ簡単に入り込まれるとはな」
エドワードは「自分だったら、そんなヘマはしない」と暗に言いたいのだろう。正論すぎて、返す言葉もない。
「エド、それはレイウェンに限ったことではないよ。わたしたちだって、ここまで侵入してくるとは予想していなかった。安心しきっていたのは、エドも同じだろう?」
「……」
アイリスの言ったことが図星だったらしく、エドワードは口をつぐんだ。
しんと静まりかえった部屋で、レイウェンはどうやってリリアを助け出すか、考えを巡らす。
ひとまず、敵が今どこに隠れ潜んでいるかを把握しておく必要があるだろう。
「テイラーとクウ。動物たちに声をかけて、ダンや他のドゥンケル族の居場所を探れるかい?」
≪ああ、お安いご用じゃよ≫
テイラーも首を縦に振る。その横でサラが手を挙げた。
「何か案でもある? サラ」
「うん。あたしらも大地の精たちに聞いてみるよ。土は、人の動きを直に感じているからね。ダンの住むフォンセ国の土なら、何かいい情報が掴めるかも」
サラの言葉は説得力があった。確かに大地の精は、自分たちよりずっと昔から国を、大地を支えている存在だ。長く生きている精であれば、その土地に住む人間のことについても詳しいだろう。
「サラ、それは名案だ。お願いするよ」
「お任せあれ!」
サラは嬉しそうに笑った。いつの間にか、サラもテイラーも頼もしく成長していた。ついこの間まで子供のように思っていたが、気づけば彼女たちも国を背負う者として、覚悟を決めたように凛々しい顔つきをしている。感慨深い気持ちで二人を見つめていたら、アイリスが口を開いた。
「それじゃあ、私たちは上から探してみるよ。どうせ、闇の属性たちが集まっている所など、一目見たら分かるからね」
≪うんうん、すぐに見つけてみせるよぉ≫
フライが羽を広げて、頭上を旋回する。その姿を見つめて、レイウェンは礼を言う。
皆、リリアのことが心配で居ても立ってもいられないのだろう。
リリアと再会して、彼女には人々を魅了する天性の力があると思った。それは、あながち間違いではなさそうだ。こうして、皆がリリアのために力を尽くそうとしている。
みんなに愛されるリリアが愛おしい。ほんの数刻前まで傍にいたのに、今は手の届かない所にいると思うと無性に彼女に会いたくなる。
「ところで、レイウェン。さっきミス・アルバードと何を話していたんだ?」
さすが、エドワードは周囲への観察に抜かりがない。常に情報となり得るものへ注意を配っている姿は尊敬する。
特に隠すことでもないので、ミリアに頼んだことをそのまま彼らにも話す。
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