第2話

「ついにな」

 ジャークが可笑しそうに笑う。ユエの腕の中で、リリアがぐったりしていた。フライやグリが心配そうに彼女の顔を覗き込む。

≪ジャーク、主に何をしたのですか≫

 ユエが冷たい声で相手を睨みつける。怒りに満ちた気を放っていた。その姿を見てもジャークは動じずに笑っている。

「少し、彼女の昔の記憶に触れただけだ」

≪何故そのようなことを……≫

「それは言えないな。特にお前たち六神には」

≪お前……!≫

 カルが人影に向かって、炎を放とうとするが、突然リリアの体が宙に浮いた。

ユエが慌てて、彼女の体を掴もうとするが、急に腕を伸ばすのをやめた。

≪カル、待つのじゃ!≫

 クウが大きな声でカルを制する。カルが放とうとしていた先に、宙に浮いたリリアがいた。そのままジャークの方へ、ゆっくりと彼女の体が運ばれていく。そのまま、その手に抱きかかえられた。

 カルがユエの方を見る。ユエは苦しそうに右腕を押さえていた。その手に黒い何かが巻き付いている。焦げたような嫌な匂いがする。

 ≪ユエ、大丈夫か!?≫

 ≪大丈夫……だ。それより、主が……≫

 ユエは人影の方を見つめる。だが、痛みに耐えられなくなったのか、姿がだんだんと薄れていき、やがて消えてしまった。その場には白に近い金色の羽が一枚、落ちているだけだった。

 ≪ユエっ!!≫

 カルとハクが名前を呼ぶが、もう声も聞こえなくなってしまった。

恐らく、リリアの体の中に戻ったのだろう。守護神は、主の体から一定の距離を超えて離れていることができない。今、カルたちが姿を保っていられるのも、姿は見えないが近くに主たちがいる証だった。

残った五神は、ジャークの方を見やる。相手の手にはリリアがいるため、誰も手が出せない。

「リリアは、こちらで一緒に暮らす。それが彼女のためでもあるからな」

 意味深な言葉を言い残して、ジャークは静かに姿を消していった。

それと同時に辺りが一気に明るくなり、五神は元いた場所に立っていた。

「ハク!」

 すぐに姿を見つけたレイウェン達が、駆け寄ってくる。だが、彼らの中にリリアがいないことに気づき、顔色を変えた。

「リリアは?! リリアはどこだ?」

≪申し訳ございません。ジャークに連れ去られてしまいました≫

 ハクはレイウェンの前で跪き、こうべを垂れる。フライがユエの落とした羽を咥え、レイウェンに渡す。彼は眉根を寄せて険しい表情かおでそれを受け取り、考え込むように押し黙った。

しばらくの沈黙の後、レイウェンが優しくハクの肩に手を置く。

「大丈夫だ。必ず、リリアを連れ戻すよ」

 ≪御意≫

 レイウェンは、すぐにアイリスたちに指示を出し始める。

「ひとまず、歓迎会はお開きだ。皆、すまないが片付けを頼む。アイリスたちは書斎室に来てくれ」

 アイリスたちは一斉にうなずき、急いで屋敷の方へ引き返していく。

レイウェンはその場に残って、召使いたちに混ざって片付けの手伝いをしているミリアに声をかける。気づいたミリアは、すぐに駆け寄ってきた。

「ミリアさん、すみません。これをリリアの服かハンカチなど身に付けていた物に、縫い合わせていただけますか?」

 彼女にフライから受け取った羽を手渡す。

「かしこまりました。出来上がり次第、すぐにお持ちいたします」

「ありがとうございます。僕の書斎室に持ってきてください」

「承知いたしました」

ミリアは理由も聞かずに羽を大事そうに持ちながら頭を下げ、すぐに屋敷へ駆けて行った。

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