第六章 蘇る記憶
第1話
≪リリア≫
頭の中で不意にあの男の声が聞こえた。
≪リリア、やっとお前に会える……≫
六神がリリアを囲むように立ち上がり、周囲を警戒する。男の声は、どうやらリリア以外にも聞こえているようだった。
完全に辺りが夜のように闇に包まれる。近くにはレイウェンたちがいたはずなのに、その姿は見えない。
また、結界の中に連れ込まれたのだろうか。
六神は自身の姿をほのかに光らせているので、リリアにも姿がちゃんと見えた。ユエが自分に背を向けて、目の前に立ちはだかる。
≪やはり、俺の力はまだ完全ではないか……≫
男が独り言のように呟く。それは六神にも声が聞こえていて、リリアの周りでしっかり姿を現しているからだろうか。
≪リリア、俺の声が聞こえているな?≫
声に反応するべきか、一瞬迷った。だが、六神が傍にいる心強さもあり、リリアは静かに頷く。
すると、ぼんやりと遠くから人の影が浮かび上がった。
「リリア」
その人影がハッキリとした口調で、リリアの名を呼ぶ。六神が全員、人影の方へ視線を向けた。クウが立ち上がり、一歩前へ出る。彼女の頭からグリが顔を覗かせている。
「ほう。お前も年を取ったものだな、クウ」
≪お前はジャークじゃな。ダンの姿をして、何しに来たのじゃ≫
人影はクウの質問には答えず、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。顔は暗闇でよく見えない。だが、体格から男性ということは推測できた。
≪リリアには、指一本触れさせんぞ≫
カルがわずかに火花を散らしながら、威嚇する。けれど、人の姿をしたジャークは鼻で笑った————ように見えた。
というのも、はっきりとジャークが姿を現しているわけではないのだ。今にも消え入りそうなほど不安定な形をしている。だが、相手から強い視線は感じる。じっと見つめられているようだ。
「リリア。こっちへおいで」
そう囁くとこちらへ手を伸ばす。その手をユエが羽を広げて、撥ね付けた。ジュッと燃える音がする。
「ちっ」
ジャークが手首を押さえながら、舌打ちをした。だが、すぐに言葉を続ける。まるで、暗示をかけるかのように————。
「リリア、俺のもとへ来い」
言葉と同時に、頭の中で何かがフラッシュバックした。突然、目の前が火の海になる。
誰かに呼ばれている声がした。必死に手を伸ばそうとしている姿が見える。
『リリア! 早くこっちへ来るんだ!!』
(誰……?)
少年の切羽詰まった声が聞こえ、リリアは声の聞こえた方へ顔を向けようとして、首が意思に反して下を向く。
炎が揺らめいている中、時々ちらちらと人影が見え隠れした。
『リリア!』
『来ちゃダメ! ダメなの!!』
まだ幼い甲高い女の子の声がした。首が勝手に左右に振られ、体も勝手に動いて後ずさる。
(え、私……?)
どうやら、幼い女の子の声は自分から発せられているようだった。誰かが炎の中を入ってこようとしているのが見える。だんだんと煙を吸い込みすぎて、息がしづらくなっていく。
(苦しい……)
『ジャーク、この炎を何とかしろ!』
≪無理です。彼女の力の方が強すぎます≫
炎の向こう側で会話している声が聞こえるが、息苦しさが増して気を失いそうになる。体を支えきれなくなり、足の力が抜けた。けれども、いつまで経っても床に叩きつけられる衝撃が来ない。ぼんやりとした視界で羽のようなものが見えた。
≪主、お気をたしかに≫
(ゆ……え?)
聞き覚えのある声がしたが、すぐに意識を手離してしまう。
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