第8話

 声を張り上げると二人はすぐに言い合いをやめ、リリアを見た。男性にじっと見つめられることなど今までなかったため、緊張してしまう。

「その……、私のことを知っている人に会えたのがとても嬉しくて。もっと自分のことを知りたいのです……」

「そうだよな。せっかくこうやって再会できたんだし、やりあっている時間がもったいないな」

「それは一理ある。リリアのいい所はまだまだ沢山あるよ。君は、昔のままだ。その取り巻く空気でさえも」

「空気?」

「そう。光にも闇にも持つことができない独特の雰囲気――――と言えばいいかな。君の周りは、常に柔らかい光で包まれている」

「初めて、そんなことを言われました……」

 自分がそんな雰囲気を漂わせている自覚は全くなかった。身にまとっている空気というのは、力のせいでもあるのだろうか。

 リリアは首を傾げる。言われてみれば、レイウェンやエドワードにはいかにも「王族」という雰囲気が滲み出ている上に、何か強い気配をずっと感じる。どうしてか、今までも感じたことのある気配なのだ。

「お二人は、専属執事だったミリアさんのことを覚えていますか? 今も一緒に暮らしているのですが」

「ああ、いつも一緒にいた人だね」

「ミリアさんから昨夜聞いた話なのですが、セェーン族やドゥンケル族には昔から力があるとか」

「あるよ。リリアも力を持っている。俺たちとは別格の力が」

「別格?」

「うん、それは後で話そうか。それより力のことが知りたいんだね? 僕は、水を操る力だよ。氷も扱える。見てみたい?」

 レイウェンがエドワードとの会話に割って入り、リリアを見る。黙って首を縦に振ると、彼は立ち上がってリリアに手を差しのべた。リリアは、恐る恐るその手を取りつつ立ち上がる。

「エド、相手してくれ」

「はいはい」

 エドワードは面倒臭そうに返事をし、そのまま三人は庭に面した扉から外へ出た。

 上の方へ何気なく視線を向ければ、ローズが部屋の窓から顔を出しているのがちらりと木の陰から見えた。

 心配そうに彼女がこちらを見ているので、リリアは安心させるためにそっと微笑む。

「エドは炎の力を扱えてね。昔はよくどっちが強いのか、力比べをしていたよ」

 ローズのことに気づいていないレイウェンは、説明しながらリリアを木陰に座らす。

 そのまま、後ろからついて来ていたエドワードに突然攻撃を仕掛けた。彼の手から勢いよく水柱がいくつも発されていく。それをエドワードは軽々と避け、レイウェン目掛けて、炎を円状に放った。すると彼を囲うように炎が燃え上がる。

 その光景を見た瞬間、リリアは胸を押さえた。苦しい。息ができない。どんなに吸っても吸っても、空気が入ってこない。だんだん彼らの姿が霞んできた。

「……っ」

 突然、ある情景が脳裏をよぎった。

 あれは誰なのか? 炎に包まれて、誰かが泣き叫んでいる。

 熱い。身体中が燃えているように熱い。

 何も聞きたくない。何も見たくない。両手で耳を塞いでも悲鳴が聞こえる。

 誰か、誰か助けて――――。

「リリア!」

 レイウェンの自分を呼ぶ声が、やけに遠くから聞こえた気がした。目をつぶり、耳を塞いだまま、リリアは意識を手放した。


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