第三章 光り輝く月龍
第1話
リリアが倒れたと村長宅から連絡があり、ミリアは急いで店を閉めて、村長の家へ向かった。連絡を受けたとき、レイウェンたちも一緒にいると聞かされたので、胸騒ぎがする。
村長の家の前では、ローズが待っていて、そのままリリアがいる部屋へ案内された。ちょうど顔見知りの医師が部屋から出てくるところだった。
「先生! リリア様は……」
「ああ、ミリアさん。心配しなくて大丈夫ですよ。今は落ち着いて、眠っています」
「よかった……。また、いつもの発作でしょうか?」
「そうですね。でも、今回はちょっと様子が違って、気を失う程だったみたいで。こんなことは私が診るようになってから、初めてですね」
「そう、ですか。先生、診ていただきありがとうございました」
「いえいえ、お大事になさってください」
医師は柔らかく微笑み、案内役の使用人とローズの後に続いてその場を後にした。ミリアは医師の言葉に思い当たることがあり、胸騒ぎがひどくなるのを感じた。小さく息を吐き出し、部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
中から男性の低くよく通る声が聞こえ、ゆっくりと扉を開ける。
「ミリアさん、ご無沙汰しております」
中へ入ると、日の光を全て集めたかのようにキラキラと輝く金髪の男性がベッドサイドに立っていた。その横には、炎のように赤い髪色をした男性もいる。
「レイウェン様、エドワード様……」
「どうもこんにちは、ミス・アルバード」
エドワードが胸に手を当て、紳士らしく深々とお辞儀をした。話し方は子供の頃から変わらない。
ベッドでリリアがすやすやと寝ている横顔がレイウェンとエドワードの間からちらりと見え、ミリアは胸を撫でおろす。思っていたより、顔色は悪くなかった。
「リリア様の身に何があったのか、ちゃんと説明していただけますか」
少し声が低くなり、きつい物言いをしてしまう。だが、怒られるのを覚悟していたかのように、レイウェンは静かに頭を下げる。エドワードもそれに倣う。
「このようなことになり、申し訳ございませんでした。僕たちの力を見たいとリリアが言ったので、庭でその力を披露していました。そうしたら、急に彼女が倒れてしまって」
「過呼吸のようになって、上手く呼吸が出来てなくて、そのまま地面に倒れて気を失ったんだ」
「もしかして、エドワード様の炎を見て、リリア様は倒れたのではないですか?」
ミリアの言葉に二人は驚いたように目を見開き、顔を見合わせた。その様子をみて、ミリアは確信した。
エドワードがゆっくりと落ち着いた声で、状況を説明する。
「そう。俺がレイウェンの周りに炎を放った途端に、発作を起こした」
「やはり、そうでしたか……」
ミリアはリリアの寝ているベッドに歩み寄り、彼女の頭を優しく撫でる。
「実はリリア様は、炎を見ると火事の記憶が蘇るようなのです」
「――――それは、彼女の記憶が戻る引き金になっているということですか?」
「はい。ですが、記憶が戻りそうになると、自ら思い出せないようにしているみたいで……。本人に、その自覚はないと思いますが」
「無意識のうちに、封印の技を使っていると」
「恐らく。それによって、小さい頃の記憶が全て封じられてしまって、何も覚えていない状態になったのではないかと考えています」
「奴らから自分の身を守るために……。当時まだ五歳だったのに、そんなことが出来るのか?」
エドワードは信じられないと首を振る。しかし、レイウェンの反応は違った。考え込むように顎に手を添えて、室内を歩き回り始めた。
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