第7話

「僕たちのことも何も覚えていないということだね」

「それは……」

「僕たちは小さい頃、よく会っていたんだよ」

「そうそう、いわゆる幼馴染みってやつ。俺たちの家系とリリアの家系は古くから付き合いがあってね」

 婚約者候補であったことは聞いていたが、幼馴染みであるという情報は初耳で、少し驚く。

「そうだったのですか。申し訳ございません、全く覚えてなくて……」

「まぁ、無理もない。君は目の前でご両親が殺されるのを見てしまい、そのショックで記憶を失くしてしまったみたいだからね」

「えっ、そうなのですか?」

「ああ」

「実は、その場にレイウェンも一緒にいたんだ。本当は俺もいたんだけど、恥ずかしいことに気を失っていて」

 エドワードは苦笑いを浮かべながら、紅茶のカップをテーブルに置いた。

 リリアはリリアで、新たな情報に戸惑いを隠せない。ミリアからも聞いていない話だ。彼らも一緒に火事を経験していたとは思いもよらなかった。

 レイウェンが少し寂しそうに笑う。その表情を見て、リリアは何故だか胸が苦しくなる。とても大事なことまで忘れてしまっているようで、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ただ彼を見つめることしかできない。

 窓から差し込む光に照らされている彼の金髪は明るく輝き、整った顔立ちを引き立たせる。「容姿端麗」という言葉がまさにふさわしい姿。リリアが今まで関わってきた男性には、いないタイプだ。

「僕の父はリリアの父君と親友で、僕たちが生まれる前から家族ぐるみで付き合いがあったんだ。僕の方が、君より少し早く生まれているけどね」

「そうだったのですね」

 知らなかったことが次から次へと明かされていき、頭がパンク寸前だ。それでも、リリアはレイウェンたちに聞きたいことがあった。

「あの、私は……小さい頃、どんな子供でしたか?」

 自分の出生を知ってから、ずっと気になっていたことだった。ミリアには当然聞いたことはあるが、年の近い二人から見た自分はどのようなものだったかも知りたい。

 彼らは愛おしそうにリリアを見つめながら、教えてくれた。

「とても活発な女の子で、知的で心優しい子だったよ。誰に対しても態度が変わらず、笑っている顔が可愛い。それに今は、美しさがプラスされた」

「うんうん。しかも色気も……痛っ」

 レイウェンに続いて話そうとしていたエドワードが爪先をさする。

「痛いじゃないか、レイウェン! 何も足を踏まなくても」

「余計なことを言おうとしたお前が悪い。奥方がいる分際で」

「今はそれ、関係がないだろっ!?」

 喧嘩が始まりそうな二人の勢いに、リリアは驚き、慌てて止めに入る。

「お、お二人とも喧嘩しないでください……!」

「リリア、これは喧嘩ではないよ」

「そうだそうだ。レイウェンが一方的に吹っかけてきたんだ」

「お前のその減らず口を凍らせてやろうか」

「へぇ。やれるものなら、やってみろ」

 今にも取っ組み合いが始まりそうで、リリアは冷や冷やする。

「あ、あの! 他に、印象に残っていることなどはありませんか?」


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