第2話

「実は、それに関連してリリア嬢とミリアくんに聞きたいことがあって、食事に誘ったんだ」

「私達に聞きたいこと、ですか?」

 リリアは思わず、ミリアに視線を向ける。彼女は何を聞かれるのか分かっているようで、カップをそっとテーブルに置き、居住まいを正す。それに習い、リリアも背筋を伸ばした。

「ミリアくん、私にも話していないことがまだあるね?」

 村長の声音は、とても穏やかだった。

 いつも凛としているミリアが、珍しく困惑した表情を浮かべながら、目前のカップをじっと見つめる。

 歯切れの悪い彼女を見て、リリアはどことなく悪い話のような気がした。緊張で手が震え出す。

 すると、隣に座っているローズがぎゅっとリリアの手を握ってくれて、安堵と共に少しだけ震えが収まった。

 ミリアは意を決したように顔を上げ、話し始めた。

「いつかはお話をしなければならないと思っていました」

「ミリアさん……?」

「村長はお気付きかもしれませんが、リリア様は亡国であるルーナ国の次期女王様でした」

「ええ! 嘘っ!! リリアが!?」

 リリアが驚くよりも先に、衝撃的な事実にローズが大声をあげて、すぐに咳き込む。

 リリアは慌ててローズの背中をさすり、お茶の入ったカップを渡した。

 それをローズは急いで飲み干し、呼吸を整える。ミリアは、ローズが落ち着くのを待ってから話を続けた。

「黙っていて申し訳ございません。実は、リリア様にも初めてお伝えする話でして」

「隠していたのは何故だい? いずれは何かしらの形で、リリア嬢が知ることになるかもしれなかったのに」

「リリア様にはそろそろお話しようと思っていたところでした。ですが、思っていたより早くレイウェン様に見つかってしまったようで」

「国王様にも居場所をお伝えしていなかったのは、どうしてだい?」

「旦那様と奥様に、姿をくらますように言われていたのです。リリア様を危険から遠ざけ、幸せに暮らせるようにしてほしいというのが、お二人のご遺志でした。それを守るために、誰にも居場所は伝えておりません」

 ミリアが黙り込み、部屋の中が静まり返る。リリアは、突然の情報の多さに混乱していた。

 まさか自分が一国を治める王国の娘だったとは、思いもよらなかった。

 しかも、今は亡きルーナ国の娘だと言われても俄に信じがたい。

 平和で幸せな今の暮らしをとても気に入っている。

 それを手放すことになってしまうのではないかと、急に不安になる。ミリアも心なしか表情が暗い。

「ですが、村長。どうして、リリア様が見つかってしまったのでしょうか。お嬢様が生きていることは知られていないはずです」

「いやぁ、それが国王様の他に、もう一人いらっしゃっていてな。隣国のエドワード国王様なんだが、どこからか情報を得たそうだ。ずっと、リリア嬢は生きているのではないかと探し続けていたらしい。それで、ここにそれらしき人がいるという情報を得て、私の所に訪ねてきたのだよ」

「やはり、あのお二人は諦め切れなかったのですね」

「え、どうして、国王様お二人がリリアを探すの?」

 ミリアと村長の会話にローズが口を挟んだ。ミリアは神妙な面持ちで、ローズの質問に答える。

「お二人とも元リリア様の婚約者候補でしたので」

「えっ!?」

 またもや知らなかった事実が発覚し、リリアは思わず声が出てしまった。

 それに、自分に婚約者がいたというのも初耳だ。

 ――――いや、自分には昔の記憶がないから、知らなくて当たり前だろう。

 今までミリアに、昔のことについては深く聞こうとはしなかった。幼い頃のことを思い出そうとすると、頭の痛みがひどくなるため、その話題をリリアが避けていたからだ。

 けれど、今ミリアから過去のことを聞いても痛みはない。むしろ、初めて聞いた話で驚きはもちろんあるが、記憶にないことを知ることができて、嬉しい気持ちが勝っている。過去の自分がどんな子供だったのか、もっと知りたいと思う。

「あと、ドゥンケル族がこの頃活発になってきていて、リリア嬢を探しているとか何とか言っていたな」

「……!」

 村長がさらに話を続け、ミリアの目が大きく見開かれた。感情が表に出にくいミリアにしては、とても珍しい。

 村長も何かを感じ取ったのか、すぐさま別の話題に移った。



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