第二章 リリアの過去と宿命
第1話
レイウェンが立ち去った後、リリアとローズはお茶を飲みながら、たわいもない話をしていた。
「……リア。ねぇ、リリア? ちょっと! 聞いているの?」
「えっ、あ、ごめん。……何の話だっけ」
「もう! 国王様に骨抜きにでもされちゃったわけ?」
「そ、そんなことないわよ!」
「そう? それにしても素敵な方だったわよねぇ、国王様……」
ローズが頬を染めて、うっとりとした表情をする。
リリアはそっと自分の胸に手を置いた。
レイウェンと別れてから時間が経っているのに、まだドキドキしている。
男の人とあんな間近で触れ合ったのは、初めてだった。
睫毛が長くて、綺麗な青い目をしていたのを思い出す。肌も透き通っていて、絵になる人だった。
だが、別れ際の言葉が引っかかっている。
『リリア、また迎えに来るよ』
あれは、どういう意味だろうか。しかも、まるでリリアのことをずっと探していたかのようだった。
『リリア。――――やっと見つけた』
レイウェンと二人で見つめ合った時のことを思い出し、顔から火が出そうになる。
「リリア、大丈夫? 何だか顔が赤いわよ」
「な、何でもないの。それより、少し冷えてきたし、そろそろ家に帰るわ」
「そうね。もうすっかり夕暮れだわ」
ベンチの上に広げていたお菓子やティーポットをバスケットに入れ、屋敷の方へ戻る。
ローズと一緒に裏口から入ると、中央ホールに村長とミリアがいるのが見えた。
「あれ? ミリアさん?」
「リリア様」
リリアに気づいたミリアが、驚いたようにこちらへ振り向いた。
よく見ると、ミリアの恰好はいつもの執事姿ではなく、余所行きの服装だ。
今日は来客があって来られないと言っていたが、仕事を切り上げて、村長に挨拶に来たのだろうか。
ローズも不思議に思ったのか、首を傾げている。
その様子に気づいた村長がいつもの優しい笑みを浮かべて、説明してくれた。
「私が彼女を呼んだのだよ。ちょっと、話があってね。店が忙しい時に悪いね」
「いえ。ちょうどご挨拶に伺いたいと思っておりましたから」
「そうだ、ローズとリリア嬢にも話を聞いてもらおうかな」
リリアはローズと顔を見合わせた。リリアたちにも話があるというのは、珍しい。
何となく、先ほどレイウェンたちが訪れてきたのと何か関係があるような気がした。
四人はそのままダイニングルームに通された。普段、ローズたちが食事をとる部屋だ。
テーブルの中央には、リリアが持ってきた花束が可愛らしい花瓶に飾られている。
「今月もまた見事な花を届けてくれて、ありがとう」
「いえ。こちらこそ村長にお店の援助をしていただいたおかげで、こうしてお金に困ることなく暮らせております。いくら感謝してもしきれません」
ミリアが深々と頭を下げる。
「いやいや、大げさだよ。君たちがこの村に来てくれてから、村も活気づいたし、こちらこそ礼を言わせてくれ」
その時、二人のメイドがお菓子とお茶が乗った銀のトレイを手に、部屋に入ってきた。
「さぁ、かけてお茶にしよう。夕食も食べていくといい」
「そこまで甘える訳には」
「話が長くなるだろうから、食べていきなさい。ローズも喜ぶ」
「ええ、是非! 久しぶりに大勢で食べられるなんて、嬉しいわ」
ローズも嬉しそうに父である村長に同意した。ローズの母は体が弱く、今日もあまり体調が優れないようだ。なかなか同じ席で食事を取ることができないらしく、「家族でテーブルを囲んで楽しく食事をしたい」と以前泊まりにきた時に漏らしていたことがあった。
「ローズ様も宜しいのであれば、是非ご一緒させていただきたいと思います」
ミリアの言葉に村長は満足そうに頷き、食事を運んでくるようにメイドに声をかけた。
全員が席につくのを確認し、ローズが最初に口火を切る。
「ねぇ、お父様? さっき国王様がいらっしゃっていたけど、どのようなお話だったの?」
「ああ、ローズとリリア嬢も国王様にお会いしたそうだね」
真向いに座るミリアがお茶を飲んでいた手を止めた。表情が少し強張っているように見える。
そんな彼女の様子が気になりつつも、リリアは村長の言葉に首を縦に振った。
「とっても紳士的で素敵な方だったわ! 噂に聞いていた通りの容姿で、またお会いしたい……」
ローズがまた一人でうっとりと自分の世界に入っていく。
村長は苦笑を浮かべつつ、リリアの方を見た。
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