第3話

「レイウェン様、もう間もなく到着いたします」

 従者の声でふと我に返る。同時に、レイウェンの真向いに座る男も目を覚ました。

「……ん、なんだ? やっと着いたのか?」

 馬車に乗って早々に寝息を立て始め、今までぐっすり寝ていたこの男の名は、クローリア・バン・エドワード。

「そのようだな」

 レイウェンは、エドワードを軽く睨みつける。

「結構な長旅だったなぁ」

 エドワードはレイウェンの冷たい視線など気にもせずに、大きなあくびをした。

 レイウェンが治めるアックア国の隣国であるイグニア国の国王で、列国の国王の中では唯一同い年の憎き親友だ。

 エドワードとは小さい頃から国同士の付き合いで、嫌というほど顔を突き合わせている。

 今回もの情報をエドワードが掴み、レイウェンの国にいると分かって、こうして二人でやって来る羽目となった。

 自国の管轄領であるが、実はローズ村にはレイウェンも初めて訪れる。

 どうしても問題が発生する村ばかりを構いがちで、異常がない村の確認は後回しになってしまう。

 だが、ローズ村は他の村と比べても、評判が良いのは度々レイウェンの耳にも入ってきていた。

 人も商売も盛んな村であり、市場は他の村や国の者も多く訪れることで有名だ。

「なかなかに住みやすそうな村じゃないか」

 エドワードが窓越しに道行く人々や街の様子を楽しそうに眺める。

「レイウェン、お前はもっと自国の村を見に行ったほうがいいぞ?」

「言われなくても行こうとは、している」

「そうか? このローズ村だって、本当は初めて来るんだろう?」

 のんきそうに見えて、さすがは一国を治める主。かなり洞察力が優れている。

 いや、長年の付き合いでレイウェンの性格を熟知しているからか。

 こちらは未だにエドワードが何を考えているのか、時々読めないというのに――――。

「なぁ、せっかく遠くまで来たんだ。後で市場とかも覗いてみないか?」

「ああ。本来の目的が解決したら、な」

 やがて、目的の訪問宅が見えてきた。

 あのから、十三年。短いようで長かった。あらゆる手段を使って、ある人物を探し続けてきた。

 なかなか消息が掴めず、手がかりも少なかった中で今回やっと有力な情報が得られたのだ。

 それが憎きでもあるエドワードが得た情報だとしても、この機会を逃す訳にはいかない。

 立派な門構えの前でゆっくりと馬車が止まり、従者が扉を開ける。

「あー、腰が痛い……。お前の所は移動距離が長いのが欠点だよな」

 真っ先に馬車から降りたエドワードが腰を伸ばしながら文句を言う。

「文句を言いに来たのなら、今すぐ帰れ」

「う、うそうそ! 領土が広いのは羨ましいなぁ!」

 嘘くさい感想を述べるエドワードを無視し、レイウェンは呼び鈴を鳴らした。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る