第4話

「――はい」

「こんにちは。先日ご連絡させていただいた、モルガン・ドゥ・レイウェンと申します」

「こ、国王様!? し、少々お待ちくださいっ」

 レイウェンの名を聞いた途端、すぐさま家の中が慌ただしい雰囲気になり、勢いよく玄関の扉が開かれた。

「お、お早いご到着でっ、国王様! こちらからお迎えに上がれず、申し訳ございませんでした。ど、どうぞ! 狭いですが、中へお入りください」

 急いで玄関まで来たのが見てわかるほどに息を切らしながら、村長自らレイウェンたちを出迎えた。

「ちょうどこの村を訪れたいと思っていたので、構いませんよ。お邪魔させてもらいます」

 帽子とステッキを従者に預け、レイウェンたちは玄関から真っ直ぐに伸びる廊下を歩いていく。

 すると、すぐに応接間らしき部屋に辿り着いた。

 レイウェンは、一人掛けのソファーに先に腰を下ろす。エドワードもぐるりと屋敷内を見回しながら、大人しくついてきて隣に座る。

「立派なお屋敷だなぁ」

「いやいやっ、お二方のお住まいと比べたら、我が家なんて狭いもので」

 額に汗を浮かべながら、村長が向かいのソファーに落ち着きなく腰かける。

 すぐに小柄なメイドがお茶を持ってきた。

 エドワードが「住みやすそうでいい村だ」と絶賛すると村長は、嬉しそうにはにかむ。

 レイウェンはわざとらしく咳払いし、本題に入った。

「ところで、村長。例の話ですが」

「ああ! そうです、そうです」

 村長は、慌てたように雑談から話を切り替えた。エドワードは運ばれてきた紅茶にそっと口をつける。

「手紙によれば、この村に住んでいる女性をお探しだとか」

「ええ」

「どういった方をお探しなのですか?」

 村長は恐る恐るといった様子で、レイウェンの顔色を伺う。

 確かに訪問する旨を手紙で伝えただけで、他所に情報が漏れることを懸念して、詳細はあまり書かなかった。

 情報を相手から欲しければ、こちら側もある程度の情報を開示する必要があるだろう。

 レイウェンは一つ深呼吸をして、口を開く。

「他言無用でお願いしたいのですが、十三年前に一つの国が滅びた事件をご存じですか?」

「え、ええ。確か、ルーナ国……でしたか。国王一家の焼身事件があった覚えが」

「そうです。その一家の一人娘である当時五歳だった少女が、実は生きているという情報を耳にしました。その少女はここ、ローズ村にいると」

「えっ! それは確かなじょ、情報なのでしょうか……?」

「僕の優秀な知り合いが調べ上げた情報だから、間違いないよ」

 レイウェンが答えるよりも先にエドワードが答え、にっこりと微笑む。

 村長はエドワードの目が笑っていないことに気づいたのか、引きつった笑みを返す。

「そ、その方の特徴などは、具体的にわかりますか?」

「そうですね。名前はフィルド・アス・リリアと言い、髪色は明るめの茶色で、瞳の色は薄いはちみつ色だ。名前はもしかしたら偽名を使っているかもしれない」

「あと、不思議なことにその子の周りは何故か、光輝いているように見えるんだよね」

「薄いはちみつ色の瞳で、リリアという名……」

「あと、どんな傷でも彼女の手にかかれば、簡単に治ってしまう」

「傷を癒す……?」

 レイウェンの言葉に、村長がどんどん目を見開いていく。誰か思い至る人物がいるようだ。

 あともう一押し、というところか。

 村長の口を割らせるために、レイウェンは少し自分たちのことを簡単に話してみた。






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