エピローグ
さてここからは後日談ということになる。
僕らが取り押さえた男は古賀聡といった。依頼者の男が持っていた手記の筆者であり、復讐をするために依頼者を今まで追っていたのだ。自殺に追い込まれた雪村佳菜子さんの交際相手でもある。
依頼者の本名は幸田光昭といった。
栗谷は依頼者=筆者ではないということに随分早くに気づいていたという。故に再度襲われる事を想定した上でこの数日は動いていたようだ。
ちなみにどうしてわかったのか聞くと、額の傷だと教えてくれた。曰く、1週間で縫い跡があのように綺麗に消えることはない。元からついていた傷跡だったのだろう。だから筆者、つまり古賀は一目見て幸田が憎き相手だとわかったのだろう。と予想したそうだ。
僕は復讐の手助けをしたいという思いが少なからずあったため、それを止めた栗谷に対して不満を漏らした。それは古賀も同じだった。
しかしそれに関しても彼は手を回していた。知り合いの弁護士に話をつけ、記憶が戻ったらすぐに幸田を訴える約束を取り付けてきていた。
「復讐も怒りに任せて戦うのも結構だが、正しく戦うべきだ。そのためなら僕は力になる。そうでないというなら僕は君を何度でも投げ飛ばして止めるよ」
そう言われて僕らは黙り込むしかなかった。
幸田の方はまだ記憶が戻らずマンションで大人しくしていた。その間に栗谷と古賀は訴訟の準備をするようだった。
僕は何となく隠し事をされていたことに不満を抱えて過ごしていた。
「君が地道に調べてくれていたから僕がああいうプランに舵を切れたんだから助かったよ。さすが僕の相棒だねえ」
などと言っていたがどうにも丸め込まれているようだった。
すっかり僕らの手から事件が手を離れたある日、僕は忘れかけていた疑問を栗谷にぶつけた。
「君、あの格闘技は何だい?いつ覚えたんだ?」
ああ、と呟いて、
「あれは合気道ってやつさ。探偵事務所をやろうって時にせっかくだから覚えたんだよ」
と答えた。
僕はきょとんとして彼を見つめ返す。
それを見て彼はくすくすと笑い、
「だって名探偵に格闘技はつきものだろう?ワトソン君?」
と言った。
霧の中の男 天洲 町 @nmehBD
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