Mens beauty salon Gatsby
美琴
第1話カオス
Gatsbyとは果たして何だったのだろう。
Gatsbyなんて元々いなかった。
そう言う人もいる。
Gatsbyは守銭奴、
Gatsbyはただのカルト
Gatsbyはただの現象。
Gatsbyはフィクション。
Gatsbyは人の中の潜在意識
で、弱い自分が作り上げた理想の自分。
Gatsbyとは人種を問わず世界中の女性の夢の中に現れる通称「夢の中の男」の正体である。そんなことを言う人もいた。
Gatsbyとは‥。
とある時期、Gatsbyについてたくさんの人が色んな事を言った…。
ちなみにだけど、俺はGatsbyを知っている。
-------------------------------------------------------------------------------------
202x年、日本はいわゆる『先の紛争』に巻き込まれた。セントラル共和国建国以来の悲願であった国土統一というスローガンの元、フォルモザアイランド解放作戦は常態化した軍事訓練が行われている海域で発生した偶発的な軍事衝突から勃発した。開戦後、日本の沖縄に属する国境離島には難民が殺到していた。そこには様々な人道支援物資が送り込まれ物流の拠点となっていた。
当初海上保安庁と警察がセントラル海上警備隊の日本領海侵犯に対応していたが、セントラル海軍が登場したことで殲滅された。
日本も自衛隊を派遣することを検討、在日米軍と各種調整、そんなことに時間を費やしている間に日本の南の島々は次々と奪われてしまった。
占領から遅れること数ヶ月後、米軍指揮のもと先遣隊として自衛隊が戦闘地域に派遣されるがセントラル軍の最新兵器の前に大苦戦を強いられていた。
そして連日、占領地域から発射されるミサイルや無人機攻撃により日本の大都市は決して小さくはない被害を受けていた。
事態のさらなる悪化を恐れた日本、アメリカ、セントラル共和国は休戦協定を結んだ。
皮肉な話だが、開戦前より徹頭徹尾抵抗の構えを見せていたフォルモザに対してセントラルは侵攻を断念、フォルモザは辛くも独立を守り抜いた。
そんなごたごたの中、日本の南の島々は奪われてしまった。
セントラル共和国軍による軍事侵攻に対して国際社会は無力で、手ぬるい経済制裁と国連加盟国中いくつかの国々がまとめて発した非難決議のみであった。
その先の紛争から更に遡ること数年前、日本の政治家は随分と威勢のいいことを言っていた…。
『フォルモザ有事は日本有事』『断固たる覚悟をもって望む』…、みたなことを言ったりしていた。
しかし、いざ始まってみると政治家たちは慎重というよりも、及び腰なスタンスに終始した。
日本とセントラル関係のさらなる悪化、日本国民からの批判を回避するために、政府は…、『現在事実関係を確認中であります、引き続き注視してまいります』、『大変遺憾であり、外交ルートを使って厳重に抗議し、再発防止に務めるように強く要請した。』などと言っていたが、今この状況下においてそんな言葉にはなんの意味もない、ということは明らかであった。
だけど、この国は戦わないし、抗わない。守る気もない。もともとそんな気概などなかったんだ、きっと。
-------------------------------------------------------------------------------------
終戦から数年後の203x年東京、とあるサロンオーナーは遠い目をしながら物思いにふけていた。『いつからだろう、この国からダンディズムという言葉がなくなったのは、とどのつまり、自分の中の当たり前っていうのが崩壊してしまったのは…いつからだろう。
多分…正解はきっと、いつの時代にもこういうことは起こっていて、自分がその時代にたまたま生まれ落ちた。それが正解なのだと思う。
だとすれば俺が為すべきことは何だろう、俺の人生の意味とは。』
-------------------------------------------------------------------------------------
203x年、東京新宿にある大衆居酒屋にて、この頃の日本はというと終戦から数年が経ちいつもの日常を取り戻しつつあった。
圭一(九州出身の25歳独身会社員、大学時代上京)
『つーか女の子が別れを切り出す時ってさぁ、実は前々から別れようとか考えてたのかなあ。』
紳助(東京出身メガネ、圭一の大学からの友人、公務員)
『ん~~~どうだろう、でもありえるね。』
圭一『え、うそでしょ。あの時も?あんなことしてる時も? こわ‥なんだよ、記念日に別れようって…うわー、なんだよ、また思い出しちまったよ。』
紳助『まぁまぁ、そんな…。時間がたったら忘れるって。』
圭一『あぁ…明日ぁ、‥仕事休もうかな。』
紳助『ん、俺の話聞いてる?てか仕事には行けよ。失恋で仕事休むとか繊細すぎるだろ、メンタル。』
圭一『(鼻すする音)、なんだよ、勝ち組のお前になんか…公務員のお前にはわかんねえよ!』
紳助の胸に埋もれながら駄々をこね、うざ絡みする圭介、その時親友紳助の肉体のある異変に気がつく。
紳助『公務員は関係ないだろ…』
圭一『…んん?、ていうか何だお前の体。 え、やば…ムキムキじゃん。しかもなんで?ちょっといい匂いもするし…。なんで?なんかやってんの?』
紳助『…あぁ、…俺最近サロン通ってるんだよね。ビューティー…サロンとでも言うのな』
圭一『ビューティーサロン?!なにそれ。え、ビューティーサロンで筋肉ってつくの?』
紳助『んーーー〜なんていうか……、色々やってるところなんだ。都内はもちろん、全国色んなところにあってさ。
ヘアサロンだろぉ、日焼けサロンに脱毛サロン、ネイルサロン、アパレルにマッサージにサウナとスポーツクラブに外国語レッスン、カルチャークラブに、プログラミングスクール、まぁあと社会啓蒙活動とかかな…
これで月額5000円で基本通い放題の、サブスク、、、みたいな感じ…』
圭一『まぁ安いか…。安いな。めっちゃ安くない?いいね。
俺も始めたい、それ!俺も自分磨き始めたい。 で、モテたい!』
紳助『じゃあ一緒に行く?。来週の金曜日でいい?いいね?ok?』
圭一『おう。』
伝票を手にとる紳助
紳助『OKじゃあ、今日は俺のおごりな!』
圭一『あざす。』
二人で店を出て、他愛もない話をしながら新宿駅まで歩く途中でそれは聞こえてきた。路地の中から何やら言い争う声が聞こえてきた。
紳助&圭一『んん?』
-------------------------------------------------------------------------------------
チンピラA『おいおいおい、払わねえで出ていくってどういう了見なんだこらぁ、ええ?!おっさんよ。』
おっさん『ちょっと待ってよ、おかしいのは君たちだろ。
2時間3000円って話だったじゃないか。なんだよ、会計8万円って!』
チンピラB『女の子つけて、あんなに飲んで3000円なわけねえだろ。ボケ!』
おっさん『だからそれがおかしいって言ってるんだよ!ハイボール一杯しか飲んでないだろ。だいたいアイス二万円ってなにこれ?頼んでないよ。こんなの』
チンピラC『ハイボールにちゃんと入ってただろ、こら!』
としびれをきらしてチンピラの一人が胸ぐらにつかみかかる。
おっさん『は、はい、ぼ、暴力ー!はい警察呼びまーす。』
チンピラCは俯き舌打ちをした。その流れでおっさんの髪をつかみ、鼻にめがけて強烈な膝蹴りを見舞った。
この一撃でおっさんは完全に戦意を喪失したようだ。うつろな目で鼻から血を垂れ流すおっさんに向かってチンピラCは言った。
チンピラC『おっさん、俺たちも仕事でやってるんだわ、遊びじゃねえんだよ。わかるな?それに日本の警察が俺らを逮捕できるわけねえだろ。世間知らずが』
これらのやり取りの一部始終を圭一と紳助は見ていた。
圭一『うわー…、痛そーう。おっさんかわいそうだけど、もう行こうぜ』
と紳助の方へ目をやると…。なにやら独り言をブツブツ言っている…
紳助『これ、行かないとだめな案件だよな、行かなかったら後で絶対怒られるよな…』
圭一『ん?、紳助?おい聞いてるか?』
すると突然おっさんたちの方へ走り出しながら言った。
紳助『悪りい、先帰ってて。俺行かないと。先帰っててぇ〜』
え、「行かないと。」?
何いってんの紳助、と思いながらも走っていく紳助にあっけにとられていた。
チンピラA『おい、おっさんチンタラ歩てんなよ。』
そこへ紳助が息を切らしながら駆け寄る。
紳助『ハァハァ、あの…すいません。おじさん血出てまよ、ハァハァ、あの…暴力は良くないですよ。おじさんを離してください。』
チンピラA『あぁ、冷やかしか?お前が金払うのか?じゃあ』
紳助『ハァ、いえ違います、そしてお金も払えません。お願いです、おじさんを離してください。手当もしないと…。』
チンピラA『…もう、うるせぇうるせぇ。じゃあお前もこい。』
と紳助をつかもうとするチンピラ、それに対し紳助を手を払いのける。
チンピラ『…あ、暴力だよなこれ?てめぇ!』
と紳助に殴りかかる。
紳助『いえ正当防衛ですよ!』
紳助は相手の動きを読んでいたのだろうか。相手の右のストレートを、しゃがんでかわしつつ相手の懐へ入り込みながら体当たりをする、チンピラはバランスを崩し転倒した。その隙におっさんの手を掴み奪還する紳助。
紳助『おじさん歩けますか?』
コクっとうなずきながらおっさんは答えた。
おっさん『あ、ありがとう。君も逃げたほうが…。』
紳助『とにかく早く逃げて、ここは僕が!』とチンピラ3人の追撃を食い止め、いなしながら叫んだ。
と、圭一はここまでの一連のやり取りに圧倒され呆然と見つめていた。というより紳助の戦闘能力の高さに呆気にとられていた。
圭一『…っていや、違うだろ。あいつ何考えてんだ。おい、やめろーー。』と叫びながら駆け寄っていく。
チンピラB『おい、こいつの仲間が来たぞー、こっちも応援よこせ!舐められてたまるか!』
圭一『いえ、すいません違うんです。まぁ仲間なのはそうなんですが
暴力はちょっとやめ…』
紳助『ハアハア…圭一…。』
チンピラと縺れ合いながら圭一は紳助の言葉に耳を傾ける。
紳助『サンキューな、ハア…。正直これ以上一人はきつかった。ホントサンキュー。』
圭一『だから違うって!何言ってんだ。謝ろうぜ、一緒に。すいませんこいつ酒に酔ってて…。』
紳助『サンキューな、 ほんとサン…。う…』
(紳助は死角から顎に強烈な一撃をもらう)
紳助は膝をつきうずくまり、チンピラ数人が追い打ちをかける。
その様子を見ていよいよやばいと思い。もつれ合っていたチンピラを蹴り飛ばし紳助に駆け寄る。
圭一『おい、やめろーやめろって。おい、お願いだからやめ…』
(圭一も死角から一撃を受け、膝をつく)
圭一もまた袋叩きになってしまった。
圭一は圭一で紳助は紳助でチンピラ総勢12人程にそれぞれボコられ続け、だんだんと意識朦朧としてきた。
そんなところに、一人の男が駆け寄ってくる。
助けに来た男『やめろー』
チンピラA『あ? あいつも仲間か。めんどくせー、あれもやれ』
駆け出すチンピラ複数人。
助けに来た男『やめろ、無駄だー。』
俺は薄れゆく意識の中で見ていたのだが、この男も相当強いらしく、チンピラの攻撃を受けながらもひるまず進み続け、ある者はパンチやキック、エルボーやヒザで、ある者は関節技や絞め技で撃退していった。
そんな状況を見ていた圭一や紳助を殴っていたチンピラ数人も加勢に向かった。こちらの状況がチンピラ4人と圭一と紳助2人…。
この状況に一瞬の勝機を見出したのか、紳助が反撃を開始した。
よそ見をしていたチンピラの足関節を極め、素早く立ち上がりもう一人の金的を蹴り上げた。返す刀で更にもう一人蹴り上げた。
紳助に連動して、圭一も一人の男に片足タックルした。そうこうしてるうちに紳助が駆け寄りあっという間に締め落としした。
そして息を切らしながら二人は見つめあった。
紳助『まだ動けそうだな』
圭一『おぉ』
助けに来た男『ハァハァ、良かった間に合った。二人だけでよく踏ん張った。あ、やっぱりだ。君を中野本店で見かけたことがある。君、サロンメンバーだね?』
紳助『はい、あなたは?』
助けに来た男『俺もサロンメンバーで、グレードはキャンディデイツだ。』
紳助『…私はトレイニーです。…ではこの場の指示はあなたがお願いします。』
助けに来た男『了解だ。一緒にいる君もメンバーだね。じゃあ…』
圭一『あ…あのぉ…。』
という圭一の問いはこの助けに来た男の話に遮られた。
その時、圭一は思った。『ん?誰なんだあんた、トレイニー?キャンディデイツ?何だそれ?何の話だ紳助ぇ!お前はただの公務員だろうが、俺を巻き込みやがって)
助けに来た男『既にいくつか手は打ってある、とある地点まで逃げる。俺たちはそれだけでいい。あとは他のメンバーがやってくれる。じゃあ、走るぞ。』
駆け出す2人、遅れながらも圭一も駆け出す。
チンピラ『まてこらーー』
チンピラも先ほどの倍ほどに増えていた。チンピラたちも後を追ってくる。傷んだ体で走りなんとか大通りにたどり着いた。帰宅時間ということもあってか、かなりの人が歩いていた。
紳助『このままだと追いつかれます』
助けに来た男『仲間を信じろ』
圭一『このままじゃ…。』
チンピラ『追いついたぜ。』
チンピラが3人に触れようとしたときだった。
先頭を走っていたチンピラの足に通行人の足がかかってチンピラ数人も巻き込まれ転倒した。
圭一と紳助は振り返り立ち止まりそうになったが、
助けに来た男の『立ち止まるな、このまま走れ!』の声に反応し再びペースを上げて走り出した。
チンピラ達『いてぇ、てめぇおい!ガキ』
足をかけた男はジーっと、チンピラ達の目を見つめる。そして…。『フッ(笑)。』
この状況の何が可笑しかったのか、彼は鼻で吹き出してしまった。
チンピラ達『舐めてんのかこら!なんか言えよ。』
チンピラ達は立ち上がり、「足をかけた男」に駆け寄って行く。すると「足をかけた男」は圭一達とは反対の方向へと全速力で逃げていった。
このあと、信じがたいことなのだけれど、こういうことがチンピラ達に相次いで起こった。
ある時は道を聞かれたり、ある時はしつこいキャッチにつかまったり、酔っ払いに絡まれたりもした。、そうこうしてるうちに20人以上いたチンピラ達は散り散りとなり、最終的に圭一達を追っているチンピラは5人程度にまで減っていた。
助けに来た男『ハァ…そろそろか、ここだ!。』
助けに来た男は急に細い路地へと入って行った。
圭一『え、ここ行き止り…行き止りですよ。』
助けに来た男『…ここでいいんだよ。』言ってと助けに来た男は立ち止まり、追手と正対した。
紳助も何かを察したのか、振り返り追手と正対した。
チンピラ達『ハァ、手こずらせやがって、覚悟はできてるか?てめえら。』
助けに来た男『…お前らこそどうなんだ?後ろを見ろ。』
振り返るチンピラ達、すると…
俺たちの援軍が10人程が駆けつけていた。
チンピラ達はふと考えた。あんなにいた俺たちの仲間は??
助けに来た男『で、どうすんの?』
状況を察し、あきらめたチンピラ達はうつむきながら、膝をついた。
援軍数人がチンピラに駆け寄り、IDと携帯を取り上げ、中身を確認する。
助けに来た男はIDをスマホで撮影する。
『なるほどね…。顔と名前と住所は覚えたからね。やり返そうなんて考えるなよ。
君たちの仲間にもそう伝えておいてよ。』
ちなみに散り散りになったチンピラ達は、あるものは捕まり、またあるものは返り討ちにあっていた。街のあちらこちらで発さられた謎の男たちの勝鬨の声は街の喧騒にかき消されていた。
チンピラ達『お前ら一体何者なんだ?』
助けに来た男『名乗るほどのもんじゃないよ。でもまぁそれは、いずれ知ることになると思う。あの人の名前をね。』
チンピラ達はお互いの顔を見あって首をかしげていた。
圭一『?』
助けに来た男『それではみなさんご協力ありがとうございました。今日は解散です。お疲れ様でしたー。』
援軍10人『お疲れさまでしたー。』
とさっぱりとしたあいさつの後男たちは町の中へとそれぞれ消えていった。
そういえば、昨日は彼女にも振られたんだった。なんだかずいぶんと昔の出来事のように感じる。ていうか、人を殴るのも人に殴られるなんていつぶりだろう。
ああ…全身痛い。
------------------------------------------------------------------------------------
名前も知らない誰かを助けた。そして助けられた。今はお互い名前も知らない者同士。
だがこの先、彼らは過ごした時間の長さよりも、血の繋がりよりも濃いなにかを作り出すこととなる。
続く
Mens beauty salon Gatsby 美琴 @mikoto2022
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Mens beauty salon Gatsbyの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます