2話

走ってここまで逃げて来たのはいいものも、

今から戻っても葵と途中で出くわす可能性があるので、ここからすぐ近くにある公園で少し時間を潰していくことにした。今、会ったら雰囲気最悪だし、何話せばいいか分からないしな。

 少しばかり頭を冷やしていくことにしよう。

 ここから、ほんの数分ほど歩いて行くと、その場所には着いた。

 夕焼けのほとんどが黒色に塗りつぶされ、もう夜の手前という時間帯、その場所はとても静寂とした佇まいでそこに存在していた。

 それもそのはずだ。

 もう6時半過ぎである。

 普段なら、小学生が鬼ごっこや、かくれんぼをしていて、もっと賑やかなイメージがあるがもう帰宅してしまっているのでそのためだろう。

 そんな公園のベンチに1人寂しく座った。

 そうすると無意識に今日あったこと思い出していた。

 長年好きだった幼馴染の女の子に振られた。

 ただ自分の思い違いだった。

 それだけのことだ。

 もう高校生なんだしそんなんでいちいちクヨクヨしていちゃだめだ。

 でもなぜだろう。

 頭では理解しているのに心が追い付かない。

 何かが胸から込み上げてくる。

 それと共に涙が額を滑り落ちてゆく。

「こんなにも本気だったんだな。俺……。」

 1度流れてしまった涙はそう簡単に止めることは出来ない。

1度流れてしまった涙はまた、新たな涙を呼んでくる。

 心から、胸の中から、ただ、ただ、寂寥感や、虚無感が滲みでてくる。

 

 さっきから泣いてばかりだ。

 こんなにも泣いたのはいつぶりだろう。

 おそらく小学校とか幼稚園それ以前だ。

 ほんとに立ち直らないとな……

 

 数十分したところで、公園の電灯がつき始めたことがもう夜になったということを知らせてくれた。

 それと共に俺は額を拭って家に帰ることにした。

 

 帰りは行きよりも距離が近く感じた。

 もう少しでこの並木通りの一本道を通り過ぎ、左折したところで平屋型の一軒家である自分の家が見える。

 そして、その並木通りを左折し家が見えるところまでさしかかったところで妙な違和感に気づく。

 いつも帰ってくるはずのない時間帯のはずなのに、車が一台とまって、部屋の明かりもついているからだ。

 今日は何かある日だっただろうか?

 母親の命日はつい先月だった。

 特に大事な日ではないような気がするが……

  

 特に何も用事なんて思いつかず、今日は仕事が早く終わったのかなと思いながら呑気に玄関の扉を開けた。

 開けた途端、父親の取り乱し口調が飛び込んできた。

 「なにしてるんだ、早く帰って来いって言ったじゃないか。あと5分ぐらいで出かけるから、早く支度してくれ」 


 「ちょっと何言っているんだよ。親父。出かけるってどこにだよ。俺全く聞いてないぞ。」

 そうだ、そんなこと聞いた覚えがない。いったい何を言っているんだ。

 

 「一昨日早く帰ってきた時と、昨日の夜、海斗が寝る前にちゃんと言ったじゃないか。大事な話があるから早く帰ってこいっていったの、覚えているだろ」


 あ……

 よく思い出してみると

 そういえば何か言っていたような気がする。

 ほとんど聞いてなかったというか、別のことに気を取られすぎて、覚えていなかった。

 一昨日は、葵とのメールに勤しんでいた。

 昨日は、明日のことに緊張し過ぎて、聞き流していた。

「そういえば、なんか言ってたね」

 少し申し訳なさそうに返した。

「本当は出かける前に話す予定だったんだけど、とりあえず車の中で話すから制服着がえて準備してくれ」

 そう父親に急かされ急いで、何かと騒がしい日だなと思いつつい支度の準備をした。

 急いで家に入り、玄関で靴を整えないままクローゼットに向かった。

 

 支度の準備は本の数分で終わった。

 髪は元々整えていたため、制服から私服に着替えるだけだった。

「よし、行くぞ。シートベルトしたか?」

「あぁ、今したとこ」

 息子のシートベルトの有無を確認するとアクセルを踏みこんで、勢いよく車は発車した。


 田んぼの通り1直線に突き進み、十字路に来たところで、ようやく父親は話し始めた。


「大事な話あるんだが、海斗いいか」

後ろに座ってたので顔は見えてないからわならないが、声色は真剣そのものだった。

「いいけど、大事な話って何?」

「それはな……、実はな、うーんとな……」

「そんな、もったいぶらずに言ってよ。」

「えーと、実はな、まぁ父さん再婚することになったんだ。でそれから、その人に海斗を紹介したりするのも兼ねて、今日レストラン料理にに誘ったってわけだ。海斗大丈夫か?」

 

 今まで男一人手でずっと育ててきてもらったわけだし特に反対する理由もない。

 何なら最近少し申し訳なく思い始めてたし。

 「いいと思うよ。別に。反対する理由もないし。何なら俺のせいで誰か新しいパートナーができていないんじゃないかって、ちょっと申し訳なく思ってたし」

「そっか、ならよかった。ところ相手にも連れ子がいるんだけど大丈夫だよな」   

 …………ん?

 あ・い・て・に・つ・れ・ご

 一瞬言葉の意味が理解できなかった。

 その言葉を理解するのに数秒ほど時間がかかった。

 つまりそれは義妹か、義姉ができるということ

 まるで漫画みたいな展開だな。

 ちょっとテンションがあがる。

 連れ子さんはどんな人なんだろうか

 包容力のある大学生のお姉さん、小学校に上がったばかりのまだ幼い幼い女の子、それとも年の近い中学生か高校生。

 まぁ、誰がきても大歓迎だけどな。

 

 いつもならめちゃくちゃハイテンションになったりしてそうだけど、今日のこともあってか割と冷静でいられた。

 

 町のほうに入りそこから数十分程で目的地に着いた。

 そこは普段あまり入らない、高級感が醸し出ているとても高そうなレストランだった。 

  

入口に入る直前俺は、まだ来ていない質問があったことに気づいた。

 「そういえば、相手さんの苗字ってなんていうの」  

 「愛川さんだぞ。愛するの愛と川で愛川さん。」

 愛川という言葉を聞いてある人物が頭に浮かんだ。

 それは、ほんの数時間前に一緒にいた人物、親友の蓮の彼女である愛川美咲のことだった。

 まさかな、同じ苗字の人なんていくらでもいるんだしそんなわけないだろう。

その時はそう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染に振られたあと、俺の周りが妙に騒がしくなっている件 雨水太郎 @haxxx00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ