1話

終わりからの始まり


 

「ごめん、遅れた。待たせちゃった感じ?」

 「ううん。ちょうど今着いたとこ、てか少し私が早く歩きすぎただけだから全然気にしなくていいよ」

 「そうか、よかった」

「てか、聞いて聞いてー。今日学校でさー……」


 話しながら、こうして、改めて葵の横顔を見ていると、端麗な顔立ちに均整な鼻梁。また長いまつ毛が双眸の存在感をより大きくして、いつも以上に美しく見えた。

 なんだか、めちゃくちゃ可愛いい。

 


 辺りのオレンジ色の夕焼けがまるで黒色の絵の具が少しずつ塗りたされていくように辺りが、少しずつ暗くなっていく。

 今日会った出来事や、友人のこと、先生に対しての愚痴など他愛もない話をしながら帰路につく。

 田舎なので、周り一帯は田んぼで埋めつくされていて代わり映えのしない景色だ。

 だけど夕焼けとマッチしていて何か少しだけエモいし、田んぼの水面に夕焼けが反射しているのを見て少し幻想的にも感じる。

 こんな情緒が感じられるのも田舎ならではの魅力だ。

 

 そんな、道を歩いていると、ようやく家が見えてきた。

 その所で俺は決心を決める。

 長年言いたくても言えなかった自分の気持ちを伝える決心を。

 今のままでも十分居心地はいい。

 だけど、それだけじゃ嫌だ。

 新たな1歩を踏みだしたい。

 もう高校生だ。これまでとは違ってもう大人の1歩手前でもある。


 いつもと同じ帰り道、1年半も同じ道を通り登下校している。

 だが今日はいつも以上に心臓が大きく脈を打ち身体中に血液を循環させている。


「あのさ……葵。話があるんだけど」

「どうしたの。急に改まって」

 葵は俺が今から何を言うか全く想像もついてない様子だった。

「俺、この街に引越してからずっとお前のことだけ見てきた。

 ずっと好きだったんだ。

 付き合って下さい」

 言葉と共に手を差し出す。

 自分の今まで溜め込んで来た気持ちを伝えやっと放つことが出来た。

 今まで、この気持ちをずっと抱えたままで言うことも出来ず苦しかった。でもやっと気持ちを伝えることが出来た。


――――――――――――――――――――――――

 

 

 20秒程待っても返事が来ない。

 かと言って差し出した手が握られてもいない。

 これは、どうすればいいんだ。

 てかなんで反応がないんだ。



 不安な気持ちを抱えながら、恐る恐る顔をあげる。

 そうすると、葵の美しい双眸が僕の瞳を捉えた。

 

 なにか、とても困惑している様子だった。


「あ、あの……」

 ようやく、言葉を決め、決心したようだった。

 「ごめん……。海斗に告白せれたのは嬉しい、でも、いまの関係のままじゃダメかな。

 これからも今まで通り友達として仲良くしていこうよ。」


 頭が真っ白になった。

 これは振られたのか……

 漫画とかでも見た事があるような典型的な断り方のセリフだ。

 友達として仲良くしようなんて……

 「わたし……の気持……とか考……らなく……たぶん……と思う」


 何か言っていたが、振られたことによりショックで傷ついていてよく聞きとることができず理解することができなかった。

 

 

 「あ……ははは、無理だったか、まぁ俺には葵の彼氏なんて務まんないよな」

 「いや、違うよ。海斗に魅力がないって訳じゃなくて。私が……」

 「あぁわりぃ、用事思い出したから先に帰るわ」

 「あちょっと……待って」


 葵には悪いとは思いつつもその場を離れた。


 泣き顔なんて葵に見せたくなかった。

 

 泣いてしまいそうになるのを耐えながら、近くにある1番近いコンビニまで、とくに目的のないまま、全速力で走り抜けた。

 もう、家も通り過ぎてしまった。

 それでもお構い無しにひたすら走り続けた。

 

 ようやく、限界まで、吐き気を催すほど息が切れたところで、冷静になって走るのをやめた。

 「はぁ、はぁ、はぁぁ」

 息切れとても激しくて立っていられなくなって尻もちをついてしまった。


 俺のなにが悪かったていうんだよ。

 今まで見せてくれた表情、俺にだけ相談して乗ってあげた時も、いつも友達としてで異性としては見てくれていなかったてことかよ。そんなのあんまりじゃないか。

 こんなことして何やってんだよ俺。

 気づいた時にはもう涙は止まっていた。


 ふと、葵のことについて考えていた。

調度俺がこの地に幼稚園年長ぐらいに引っ越してきてから、幼稚園、小、中、と一緒の学校で家も割と近いので近所付き合いで仲良くさせてもらっていた。

 一緒に遊んだり、学校などで彼女の1面に触れていく上で気になってゆき、終いには目で無意識に追うようになっていき好きになっていた。

それは、小学4年生の頃だった。

 葵は電車で街の方の高校に行っていて、自分は駅の近くにある地元の高校に通っている。だから毎日駅からわざわざ高校まで来てくれて一緒に帰っている。

 彼女は、成績優秀で眉目秀麗。

 そんな人を彼女にしようだなんてなんとも厚がましい考え方だった。

 

 勝手に期待して、終いには自分自身に失望する。

 葵の気持ちを考えずに。

 一方的に自分の気持ちだけを伝えて。

 もう相手の考えていることなんてよく分からなくなっていた。

 こんなことになるなら最初から恋なんてするべきじゃなかった。

 そんな思いが自分の心の中に積もっていく。

 もうこれからは、期待することなんてやめにしよう。

 そうするとがっかりすること何てないのだから。

 そう最初に思ったのはこの時だった。

 


 こうして俺の、7年間にも及ぶ初恋は終わった。

 

 

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