第55話 帰りましたぁ?
「……………ただいま、帰りましたぁ?」
「「お帰りっ!」」
オートロックを開けてもらってエレベーターで部屋の前まで来て玄関を開けた途端に、友香さんと京佳さんから迫られるように詰め寄られて。
「で、どうだった?」
「所期の目的は達成しました。でも、別れ話は有耶無耶になってしまって。」
「で、どうするのかな?」
「私からはどうしょうもないかと。」
話し合いもそこそこにして、優柔不断な真成にしては激しく愛してくれたから今でも身体のあちこちが痛いのよね。初めてが痛いというのは本当だったと身を持って実感したわよ。
場所は友香さんの部屋。
朝帰りした私は、二人が待つ部屋へと帰り着き報告して。初体験を同性とはいえ報告するなんて、恥ずかしいけどけじめをつけるためにも必要かと割り切るしかないわね。
「……………いつ帰るのかな?」
「もう少しいれば?歓迎するわよ?この部屋で泊まっていけばいいしね。」
「そうそう、観光するなら案内するわよ?」
「ん〜、そう言ってもらえると嬉しいけど、まだあちこち痛いのよね、初めてだったし、歩くのも辛いくらいだし。」
「少し休んで明日からでもいいからさ、一緒に出掛けない?」
「え、いいんですか?私、お二人に嫌われてるかと思いましたけど?」
「真成の親友さんからのプロポーズ、受けるんでしょう?」
「はい、お陰様で吹っ切れましたから受けるつもりです。」
「それなら、『戦友』として歓迎するわよ?」
「『戦友』、ですか?」
「ええ、『戦友』、そのかわりに私達が知らない真成の事を教えてもらいたいの。」
「そうね、私はまだ未経験で真成とは初体験失敗してるし。」
「でも、京佳さんは真成と同棲してるんですから、今夜にでも迫れますよね?」
「その為の『切り札』が欲しかったんだけどさ、私には使えなさそうだしね?」
「あら、切り札ならまだ有りますよ?」
「「……………ぇ?」」
バッグから取り出して二人に見せる、『なんでもいえことをきく券』。
「ほら、これです。私にはもう必要ないから、お二人にお譲りします。」
「「…………………………」」
「あら、どうかしましたか?」
「ぁ……………つ、使えるの、かな?」
「そ……………そうよね、使える、かな?」
「真成は真面目だからイケますよ。有効に使ってくださいね?」
一冊ずつ二人に渡して。
そう、一冊。十枚綴りが、一冊ずつ。
手に取って、固まって、じっと見詰めて動きそうもない二人を見ながら、帰ってから優樹君にどういう風に説明しようかと悩んでみたけど、正直に言うしか無いわよねと思い直した。
勘違いルームシェアから始まる同棲生活 じん いちろう @shinn9930
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