海上のアリス

冬城夏音

海上のアリス

 コンコンッ。

 

 扉のノック音が木が数本と小さな家と看板のみがある孤島に響き渡る。

 

 しかし、その音に応える者はいなかった。

 

 その事を知っていたのにも関わらず、少女は扉を叩く。

 

 



 『向日葵っ』

 

 私は呼ばれながら身体を揺さぶられ起きる。


 「菫、起こさないでよぉ」


 『放課後の教室で眠っている友達が居て、起こさない訳ないでしょ』


 『大体、何でこんな所に一人で居るのよ』


 「だって丁度日が当たって、眠るには絶好だったからぁ」


 「菫こそ何で居るの?」


 『私は帰ろうと思った時に忘れ物に気が付いたからよ』


 「ふぇ~」


 『「ふぇ~」ってあんたねぇ!少しは興味持ったり、返事の仕方はあるでしょ!』


 『はぁ……もうなんか疲れた。』


 『何でもいいから帰るわよ!』 


 「はぁ~い」


 


 家に着いた。

 

 私は自室に行き、ベットに俯せになって学校で見た夢について考える。

 

 


 今日も同じ夢を見た。

 

 その夢は毎回私しか乗っていない船が映る。

 



 その後、前回の島から少し離れた場所に船は着く。

 

 着いた島は前回の島と似ているようでどこか違う。

 

 着いた後は家に向かう。

 

 その度に家の前にある看板に目を向ける。

 

 だが、霞んで見えない。

 

 それを確認すると私は扉を叩く。

 

 応答が無いことを確認すると目が覚める。

 

 という流れだ。




 そう考えていると私はそのままベットの上で眠りに就いてしまった。




 嗚呼、まただ。


 水平線が綺麗に見える透き通った世界に私は一人。

 

 何故だろう。

 

 何故私はここに居るのか。

 

 考えようとすると頭がそれを拒む。

 

 理由が欲しい。


 


 私は母に起きろと言われ起きた。

 

 夢の終わり方はいつも通りだった。

 

 私はテレビを見て、世界に見事なから笑いを披露して食事を終える。


 


 私は部屋に戻り、電気を消して再び寝た。





 また同じ導入だ。

 

 今回は足掻いてみた。

 

 前回の島に戻れるのか試そうと思った。

 

 私は手で水を掻いて進もうとしてみた。

 

 だがそこには目に見えない壁があった。

 

 私はもう一度掻いてみた。

 

 だが身体は動かなかった。

 

 私は気が付いた。

 

 壁があるんじゃない。

 

 私の身体が動こうとしなかったんだ。

 

 何も出来ないまま今日の島に着いた。

 

 やはり看板に書かれている文字は霞んで読めない。

 

 私が扉を叩くと当たり前のように応答は無い。


 


 次の日、私はいつも通り登校していつも通り授業を受けていた。

 

 その日の昼休みだった。

 

 菫とは違う友人から訊かれた。


 〔向日葵って好きな人とかいるの?〕


 「いないよー」

 

 嘘を吐いているわけでは無い。

 

 実際にいないのは確かだが、何故だろう。

 

 怒りが込み上げてくる。

 



 その日も昨日と同じように帰ってベットの上で考えた。

 

 何故あの時私は怒ったのだろう。

 

 そう言えば、私は菫以外の友人の話題に付いていけてた覚えが無かった。

 

 私はこの世界でも寂しい存在なのかとふと思った。

 

 今日は眠なかった。



 食事を終え、風呂にも入り、歯を磨き、電気を消して私は寝た。


 


 今回は特に足掻かずに次の島に進んだ。

 

 いつも通り家の前に行った時だった。

 

 私はいつもとは違いすぎる光景に驚いた。


 看板の文字が読めたのだ。

 

 【関わってほしくない】

 【助けてほしい】


 何故か分からないが私はそれを読んだ瞬間に胸を撃たれたような感覚に陥った。

 

 驚いたのはそれだけではない。

 

 私はそこで起きたのだ。


 



 何故かと考えたが答えは出なかった。

 

 私はそのまま学校へと向かった。





 いつも通り門を潜ろうとした時に私は思った。

 

 「この門を潜ってしまえば私はまた原理の分からない怒りを感じることになってしまうのだろうか。」

 

 嫌だ。

 

 いや、面倒臭いの方が適切か。

 

 よく分からない何かに振り回されるのは気味が悪い。

 

 しかし立ち向かわないのも逃げているように感じて癪に障る。

 

 どうしたものか……。


 まあ行かないとか……。

 

 私は渋々と門を潜った。


 


 体調が悪いと言い、極力友人と話さないようにしているが長くは続かないだろう。

 

 〔向日葵~〕

 

 名前を呼ばれた瞬間、嫌気が差した。

 

 しかし、元気に振る舞わないと余計に探られそうでそれも面倒臭い。

 

 私は仕方がないと思いながら接した。

 

 「どうしたの?」

 

 〔今日体調悪いんだって?〕

 

 「夜更かししてた私が悪いんだから仕方ないよ」

 

 〔辛かったら保健室行きなよ?〕

 

 「うん!ありがとう!」

 

 〔私用事があるんだった!じゃあね!〕

 

 「じゃあね~」

 

 嗚呼……。

 

 まただ……。

 

 また何故か怒っている。

 

 今日はもう誰とも話さないようにしよう。


 



 やっと放課後になった。

 

 取り敢えず今日も教室で眠ろう。

 

 そう思い腕を机に置いた瞬間、ペンケースが落ちた。

 

 拾わないと。

 

 視線を下に向けた時だった。

 

 [どうぞ。]

 

 私の視線にはペンケースは無かった。

 

 視線を上げると机にペンケースがある光景とカメラを首に掛けた男子生徒がそこにあった。

 

 「ありがとう」と言うと私は男子生徒から視線を逸らしてしまった。

 

 [どういたしまして]

 

 [君はどうしてまだ教室に居るの?]

 

 「ここは眠るのに丁度良いからだよ」

 

 「君こそ何で?」

 

 [写真を撮るのが好きで何処か良い場所ないかなって校舎内を歩いていたら君を見つけたから]

 

 「なるほどね」

 

 [君はさっきから何を見ているの?]

 

 「学校の周りにある大きな向日葵と月桂樹だよ」

 

 「向日葵は自分の名前と一緒だから勝手に自分を重ねちゃってね」

 

 [そうか。初対面でこんな偏見を言うのはどうかと思うけど、君はあの向日葵に似ている気がするよ]

 

 「そう、私は眠るから帰りな」

 

 [そうさせてもらうよ]

 

 [じゃあね]

 

 もう眠ろう……。

 

 いや、ちょっと待て。

 

 何故話せた。

 

 話せただけならまだしも、怒りを感じなかった。

 

 何故だろう。

 

 きっと考えても無駄だ。

 

 眠ろう。

 

 


 またこの場所か。

 

 だが今回は前回目が覚めた地点と同じだ。

 

 船にも乗っていない。

 

 看板は前回と同じ文だった。

 

 コンコンッ

 

 取り敢えず扉を叩いてみた。

 

 

 

 扉から光が射し込み、扉は開いた。

 


 

 何が起きたのか分からなかった。

 

 何か思う前に私の身体は家の中だった。




 私はそこで起きた。

 

 私はとても嬉しかった。

 

 私の中で小さな変化があった。

 

 一つの絶望が希望に変わった気がした。


 


 私は下校中に考えた。

 

 ドアが開いたのはあの男子生徒が関係しているのではないかと。

 

 思い返してみると彼には明確ではないが何か同じような物を感じた。

 

 シンパシーと言うやつなのかも知れないと思った。




 家に着き、興奮して眠れずにいた。

 

 少し時間が経ち、いつも通り食事をしようとするがやはり期待せずにはいられなかった。

 

 今日はあのから笑いを本当の笑いに変えられるのではないかと。

 

 私は食卓に着き、テレビの電源を点けた。

 



 何も変わっていなかった。

 

 皆笑っているのに私だけから笑い。

 

 寂しかった。

 

 何で自分だけ……。

 

 そう無意識に思う頻度は多くなっていった。

 



 私は自室に戻った。

 

 風呂に入り、歯を磨き、暇を潰して電気を消してその日も寝た。


 そしていつもの場所に戻って来た。

 

 私は船で次の島へと向かった。

 

 前回の島はどうなっているのかは気になったが流れに抵抗する気は全く無かった。

 

 相変わらず家が一軒と木が数本そして看板が一つのみだった。

 

 看板を見ると今回もはっきり文字が読めた。


 【こっちを見るな】


 と書いてあった。

 

 前回の看板に書いてあった文は現実と重なっていた部分があった。

 

 もしそれが今回も同じだとするのなら現実で私が思うことにもしくは思っていると言うことになる。

 

 嫌だ。

 

 もうあんな苦しい感情になりたくない思い、私が無意識で踞り頭を抱えていると朝になっていた。


 


 私は行きたくないと思いながらも勉強が付いていけなくなり、後に勉強しないといけないのが億劫に感じ、私は登校した。

 

 後悔した。

 

 今日は怒りと言うより嫌と言う気持ちの方が強かった。

 

 勇気を出し門を潜り授業を受けた。

 

 昨日と変わらず、話し掛けられる事を嫌に感じたが今日はそれだけではなかった。

 

 何処からか常に見られているように感じた。

 

 怖かった。


 こんな日がずっと続いた。

 

 次の日もそのまた次の日もそのまたまた次の日もずっとだった。

 

 七、八ヶ月間毎日だった。

 

 休日で自宅に居る時は少しだけ辛さが和らいだが辛いことには変わりなかった。

 

 何で私だけが……。

 

 皆が楽しそうに会話しているのを何故私は横目で羨ましく思いながら見聞きすることしか出来ないんだ。

 

 皆無意識だとしても酷いな。

 

 我ながらもの凄い暴論に行き着いたなと呆れる。

 

 それと同時に「もしこれが大人の社会だと言うのであれば私はこいつらよりも早く知れて良かったよ思おう」とも思った。




 ある日私は久々に放課後に教室で眠ってみようと思った。

 

 七、八ヶ月の間は放課後に教室で眠っていなかった。

 

 一息吐いた後に腕を交差させ、そこに頭を置こうとしていた時だった。

 

 『向日葵また眠ろうとしているの?』

 

 息を吐いた瞬間に言われたため私は驚いて感情や思考が混雑した。

 

 しかし驚きの後に嫌気が来たのは明確に分かった。

 

 『そう言えば向日葵ここずっと様子が変だけど何かあったの?』

 

 『相談に乗るよ?』

 

 話し掛けないでほしい。

 

 乗ってほしい相談何て無い。

 

 そう思ったが話さなければ帰りそうにないため、私は嘘を吐いた。

 

 「家族間で喧嘩とか色々あってね」

 

 『なるほどね』

 

 『ならまず家族とちゃんと話し合ってみたら?』

 

 「ありがとう、助かったよ」

 

 『ごめんね、在り来たりなことしか言えなくて』

 

 「ううん全然!」

 

 「そう言えば菫は何でここに居るの?」

 

 『向日葵、ずっと様子変だったからここに行けば何か聞けるかなって思って毎日来てたの』

 

 「そっか、ごめんねずっと無駄足だったよね」

 

 『そのお陰で今日話せたんだから大丈夫だよ』

 

 『気にしないで』

 

 菫は笑顔でそう言った。

 

 私は眠ることを理由に菫を帰した。

 

 


 私はその後も眠れずに家に帰り自分のベットで眠ろうとしたが私は菫に嘘を吐いたことに酷く後悔し、そんなことした自分に嫌気が差して眠れなかった。


  真摯に答えてくれたのにも関わらずその純粋な心を裏切ってしまった自分が許せなかった。

 

 私は明日本当のことを言おうと決心した。


 その日の夢もいつもと変わらず扉を叩いても応答はなかった。





 目が覚め、登校をし、授業を受け、放課後になった。

 

 教室にあらかじめ呼んでおいた菫が来た。

 

 『向日葵どうしたの?』

 

 「急にごめん、実は昨日私が言ったことは嘘なの」

 

 「本当に申し訳ないと思ってる……」

 

 『そっか……嘘を吐かれたことは少し残念だけど何かしらの理由がきっとあったんだよね』

 

 『なら仕方ないよ』

 

 私は本当のことを全てありのままに話した。

 

 すると菫を私に抱き付いて来てこう言った。

 


 『ごめん』



 『私にはどうすることも出来ない、何も言えない』



 『本当にごめん』



 私は何も言葉を返せなかった。

 

 私は目から涙が零れることしか出来なかった。

 

 『何も言えないのにこんなお願いしていいのかどうか分からないけどいい?』

 

 私は頷いた。

 

 『一緒に帰ろ』

 

 そう言って彼女が温かい手を私に差し伸ばしてきた。

 

 すると私の目からもう一度涙が零れた。




 その日テレビを見たがから笑いは本当の笑いにはなっていなかった。


 その後私は夢の中でまた船に乗っていた。

 

 少し流れに身を任せると次の島に着いた。

 

 私は微笑んだ。

 

 扉が開いていたのだ。


 私が家に入ると私は起きた。


 


 登校して門の前までやって来た。

 

 私は何にも怯えていなかった。

 

 その理由は「私には菫がいる」それのみだった。

 

 しかしそれがとても大きいのだ。


 学校では常に菫と過ごしていた。

 

 学校生活が楽しいなんて感じたのはいつぶりだろう。

 

 今日の私には笑みが零れていた。

 

 それは仮面だったり創り上げてなどいない素の自分だった。


 今日のテレビは笑える内容でなかったため特に何も感じなかった。

 

 いつも通りだが何処か少し違う夜を過ごし、寝る手前まで来た。


 そろそろ新学期だなと久々に平和なことを考え、楽しいなと思った。


 私は心の中の確かな期待を信じて寝た。


 



 私は起きて哭いた。

 

 頭を抱え、誰かに謝っているように頭を床に擦り付け、高音を発した。

 

 「何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でっ!何でなのよ……」

 

 「私の物語はもう十分でしょ!!??」

 

 「もう終わりにさせてよ!!!!」








 

 


 


 


 

 

 

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海上のアリス 冬城夏音 @tojyokaon

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