「本当かい!さく!」

「嗚呼。ただ、全てを話すんだ。何故その様に思うのか。全てだぞ」

「ああ判った。全て話そう。……と言いたいところだが、全て話してしまうと、生憎あいにく、僕にも君にも、少々不利益が働いてしまうのだよ」

「と言うと?」

「今後の生活に関わる不利益だよ。詳しくは言えないがね」

「ならばお前の話は信用しないと言ったら?」

「君の家族にも関わると言ったら如何どうだ?」

薊藺けいりんに?」

「嗚呼」

 燕は策士であった。私にどの様な事を言えば頷くか把握している。それは國同士の戦でも存分に発揮されていた。だから兵軍からは重宝されて居る。

 燕は聡明なのだ。聡明が行き過ぎ、冗談も口に出来ぬ様な堅物に成ってしまったのだろう。屹度きっと

 私は、私の妻、薊藺の事になると簡単にくびを縦に振ってしまう節が在る。弱点と云っても良いだろう。直そうとは思うが、直せないのである。何せ、唯一の家族なのだ。溺愛する妻が危険にさらされては堪らない。だから、

「判った。受容うけいれよう。話せ」

 といとも容易く口にしてしまった。

「雀。君ならそう言うと思っていたよ。では話して征こう。……君、今日が何の祭日かは知っているな」

「嗚呼、勿論」

 今日は卯月のしち鎮神祭ちんじんさいの日だ。数百年も昔。この國で破空はくうと云う神が暴れた。その神を鎮めた日が今日である。國を上げての大きな祭日だ。

しかし、それとのこれに何の関係が有ると言うのだ?」

「僕達はこれから瓏燐宮ろうりんぐうへ向かう。その途々みちみち、僕は翠に殺されるんだ」

 瓏燐宮は、破空が鎮られていると云われる場所である。よりによって瓏燐宮のへ向かう道とは……。彼処あそこは神の通り道とされているのに。そんな処で殺生など。燕の世界の翠はどの様な思考を持ち合わせているのだろうか。

 まあ良い。

「詳しく話せ」

 と、そう私が口に出すと、燕は滔々とうとうと語り始めた。

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再燦再死 花楠彾生 @kananr

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