再燦再死

花楠彾生

「多分、今日僕は殺されてしまうだろう。いや、確実に殺される」

 内容に見合わず、緊迫感の無い呑気な声で私に語っているのは、葭月かげつと云う國の兵、珂朝燕かちょうえんと云う男。

 この燕と云う男、普段は非常に穏やかである。冗談と云う物が一切通じず、又、冗談と云う物を口に出した事は一度も無い。その様な詰まらない男である。

 その詰まらない男が、今、私に向かって訳の判らない事を口走っている。

 流石に私も多少は驚いた。そして疑った。しかし、それなりに好奇心をくすぐられる話題であったから、

「それはどう云う事だい」

 と問うた。

 すると、燕は言ったのである。

「今日、僕は、季宵翠きしょうすいに殺されるんだ」

 と。耳を疑った。今日の燕は狂っているのであろうか。それとも、下手な冗談だろうか。私達の友人である翠を下劣な殺人犯ばわりとは。冗談にしても限度と云う物が有るでは無いか。

 その為、

「お前は何を言っている?」

 私はそう問うた。

如何いかにも、信じ難い話なのは判っているがね。君、これはまことの話なんだよ。信じてくれ」

「燕。お前は正気か? 何か奇怪おかしな藥でも……」

「断じてその様な物は体内に入れていない」

「では、日々の鍛錬や戦で気が狂ってしまったか?」

「否、僕は正気だよ。真面目に言っているんだ」

 それから廿にじゅう秒程、私達の間には沈黙の帳が降りた。

 そのかん、私は思案した。この話を信じるか否か。数秒後、私は或る結論に辿り着いた。

「判った。燕。お前の事を信じよう」

 燕の話を信じる事にした。

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