第7話 希望の輝く海
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駅前通りをまっすぐ歩いていく。懐かしい道、忘れたことはない。
短大生になったばかりの春、創太と並んで歩いた。彼は大学生で、成人を迎えたばかり。酒が飲めるようになった喜びと共に、夢を語ってくれた。彼の夢は、本物のウイスキーを造ること。十年、二十年と樽で寝かせ、金木犀の花のような香りを放つ琥珀色の希望を分け与えたいと。
田川橋を渡り、侍小路を過ぎると、遠くにパゴダ屋根の赤いとんがり帽子、重厚な石造りの建物、ウィスキー樽が見える。隣には麦芽を乾燥させるキルン塔がそびえ立っている。
五年の時を経ても変わらぬ景色が広がる。雪に包まれた蒸留所が、絵はがきのように美しい。しかし、その静寂を観光客の騒がしい声が破る。彼らはガイドに従い、施設内へと消えていく。
正門にたどり着くと、案内板のメッセージに足を止める。 「ウィスキー蒸留場の見学コースは、ネット予約のみ」とある。信じられない。以前はフリーパスで入れたのに。隣町の住民でも、予約がなければ入れないのだ。
どうしようかと一瞬戸惑うが、ふと創太と一緒に見た景色が思い浮かぶ。積丹ブルーの海、珍しい岩や断崖絶壁が続く透き通った海原。そこへ行けばいい。創太との思い出が詰まった、あの美しい場所へ。
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