第6話 木漏れ日

 

 ♪


 翌朝、目覚めると、久しぶりに空は晴れ渡り、木々の間から優しい日差しが差し込む寒凪の日を迎えていた。


 廊下を駆け回る弟の子供たちの姿が目に映り、賑やかな家の中から少し離れたくなった。朝食を終えると、母が優しく声をかけてきた。


「少し、外の空気を吸ってきなさい」


「ありがとう、そうさせてもらうわ」


 母は私の好物である明太子のおにぎりを新聞紙に包んでくれ、お茶も一緒に持たせてくれた。沢庵の香りがほんのりと漂い、その温もりに心が和んだ。


 冬の木漏れ日の中を歩き、小樽駅から函館本線の列車に乗り込んだ。真冬とは思えないほどの陽射しが眩しい。


 乗った列車は一両編成で、運転席の脇にある運賃箱と表示器がバスのようで、少し驚いた。ワンマン車両がいずれ姿を消す運命にあると聞いていた。


 幸いにも列車は空いており、ローカル線特有のボックス席にひとりで座り、足を伸ばしてくつろいだ。


 車窓からは、北海道特有の雪景色や樹氷が広がり、壮大な自然が流れるように見えた。ドラマチックな景色に心奪われた。


 しかし、山間のスキー場を滑る人々を見て、ウィンタースポーツが得意だったあの人の顔が思い浮かんだ。日焼けした彼の真っ黒な顔が、幼い頃の兄のように優しく微笑んでいる。


 ゆったりと走る列車に身を任せ、束の間の贅沢を満喫した。もう少し、このままの景色を楽しみたかった。しかし、30分も経つと目的の駅に到着し、ふとした夢から覚めた。


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