第5話 突然の縁談
♪
雪が降りしきる日々、私は時間を持て余していた。母の親友である春子さんが、私の帰省を耳にして訪ねてきた。
「結奈ちゃん、久しぶりね! ますます美しくなって、びっくりよ。帰ってきたんだから、顔くらい見せに来なさいよ」
「春子さん、ごめんなさいね」
「まあ、若くて美しい女性がいれば、男性が放っておくはずがないわ。実はね、あなたにぴったりの話があるのよ」
春子さんはいつも通り活気に満ちていて、早速縁談の話を持ちかけてきた。近所の男性が私に興味を持っているという。母が何か手を回したのだろうか。
「春子さん、その人って誰ですか?」
「それがね、以前町長をしていた山田さんの息子さんよ。自分からアプローチするのが普通なのに、紹介してほしいって。今どきの男性はどうなってるのかしら」
春子さんは早口で話し続けた。母は黙っていて、ただ笑顔で頷いていた。その男性は、広い土地で野菜を栽培する農家の跡取りだという。
昔はやんちゃだったけれど、今は落ち着いた三十代半ばのイケメン。新しい家を建てて嫁を迎える準備をしているらしい。
再婚の夢を捨ててはいないが、どんなに魅力的な男性でも、正直なところ、私は気乗りしなかった。
「一度会ってみたらどう? お見合いじゃないから、ふたりだけで会えるわ。念のため連絡先を教えておくわね」
「もしかして、私の連絡先まで彼に教えちゃったの?」
「あなたの携帯番号は知らないわ。家の電話番号は伝えておいたけど、それでいいでしょう。ご近所同士、みんな知ってることだから」
「そう……」
春子さんの前で、私は複雑な気持ちになった。東京での生活では考えられないようなことが、ここでは日常だ。私の帰省の噂はもう町中に広まっているのだろう。狭い田舎社会での密接な人間関係を、私は忘れていた。
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