第3話 雪あかり


 ♪


 ああ、なんて美しいのだろう。


 久しぶりに訪れた小樽の街は、その魅力的な佇まいで私を温かく迎えてくれた。雪明かりが灯ると、街はノスタルジックで幻想的な世界へと姿を変える。


 私の名前は、丸山優奈。世間ではおそらく、出戻り娘と揶揄されるだろう。冷たい風が身にしみる立場だ。いや、もうとっくに娘などと呼ばれる年齢ではないかもしれない。


 短大を卒業してすぐ、両親の反対を押し切り東京へと旅立ち、それ以来郷里の土を踏むことはなかった。


 両親とは勘当に近い関係だった。あわてんぼうで我が儘な娘だと、激昂されても仕方がない。


 しかし最近、両親や弟の正二もようやく私を許してくれた。それでも、かつての恋を後悔しているわけではない。


 みんなは温かく迎えてくれるだろうか。寒さに凍えながら、自分に言い聞かせるように独り言を漏らす。もう下を向くのはやめよう。前を向いて歩こう。悲しみは終わりにしよう。振り返ってはいけない。


 実家への道すがら、自動販売機で缶コーヒーを手に取る。その温もりが、寒さの中で心まで温めてくれる。


 久々にかけたまん丸メガネが曇り、ハンカチでそっと拭くと、美しい景色が目の前に広がる。


 運河に漂う雪の結晶が、ガス燈や街灯の光と交錯し、紺碧から橙色へと移ろう光景を創り出す。真っ白な道筋が一直線に続き、「早く一歩を踏み出せ」と促しているようだ。


 ほんわかと浮かぶ灯りが凍るような水面に溶け込み、冷え切った心に暖かい風を運んでくれる。


 思わず、曙色の空を見上げる。もう迷うことはない。何度も自問自答を繰り返す。


 星雲の合間から射し込む一筋の光が、ふるさとに置いてきた懐かしい日々を思い起こさせ、初恋の男性の姿がぼんやりと浮かぶ。彼は元気にしているだろうか。心の奥底では、今も葛藤が渦巻いている。


 運河は時間とともに、六角形の雪片で白い絨毯を創り出し、レトロなガス灯の光が反射して、まるで印象派の絵画を眺めているかのようだ。これまでに見たことのない景色だ。


 そろそろ、いいのかな……。たとえ裏切り者と言われても。


 ふと漏らした息が琥珀色に染まり、初恋の人が好きだったウィスキーのことを思い出す。


 この冬で、私は二十五歳を迎えた。


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