第4話 結末
――後日、新しい職場の忘年会に参加した俺は、年下の先輩たちと共に居酒屋でジンギスカン鍋を囲んでいた。それは鍋という名前から想像していた汁物では全くなくて、中心が盛り上がった変な鉄板を使っているだけの、ほぼ普通の焼肉である。ただ焼肉と違うのは、牛肉じゃなく羊肉を使ってるってところだろうか。
だが初めの一枚を咀嚼して、俺は違和感に首をかしげた。
「あれ? いつも食べてるマトンとなんか違うような」
すると同じ鍋を囲んでいた先輩が、ビールを胃に流し込む手を止める。そしてこちらに向かって泡を飛ばしつつ言った。
「お前いつもマトンなんか食ってるのかよ! 東京アピールか!」
「ちがいますよ! 前に言ったお隣さんが差し入れしてくれるカレー、マトンなんす」
「クソ羨ましいな!」
すると苦笑しながら、別の先輩が口を挟んだ。
「まあ、違うのはラムとマトンだからとかじゃね? 同じ羊の肉でも、なんか二種類あるらしいぞ。マトンはラムよりクセあるっていうじゃん?」
そういうもんなのか。まあやっすい居酒屋の二時間コースのジンギスカンだから、なんかオシャレなカフェ用の肉とは本格度が違うとかなのかもしれない。
「で、ラムとマトンの違いってなんだ?」
「さぁ……」
しばしの沈黙。だがすぐに、俺たちは他愛もない話に戻っていった。
「そういや例の一部が白骨化したバラバラ死体、また見つかったんだってさ」
「うわ、これで四件目かよ。怖ぇ〜」
「ホント、怖いっすよねぇ〜」
俺は他人事のように笑って、飲み放題のジョッキを
◇ ◇ ◇
安酒でしたたかに酔った俺は、上機嫌でアパートの階段を上る。手元が狂って上手く入らない鍵をガチャガチャしていると、隣室からひょっこりと彼女が顔を出した。
「おかえりなさい」
「あ、こんばんは。夜中にうるさくしてすんません!」
「いいえ。その、ちょっと困ったことがあって……」
「なんだ、俺で力になれることあれば、何でも言ってくださいよ!」
「じゃあお言葉に甘えて……ちょっとおはなし、聞いてもらっていいですか?」
彼女は眉尻を下げたまま小さく首をかしげつつ言うと、自分の部屋のドアを少し開いた。
俺はごくりと、唾をのむ。酔いはすっかり、どこかへ吹っ飛んでしまったようだ。
――ああやっぱり、あの時チャンスを逃さなくてよかったじゃないか。
「では、おじゃましまーす……」
俺は期待に胸を膨らませながら、彼女の部屋のドアに、手をかけた――
――数時間後。
俺は満ち足りた気分で腹を抱えると、彼女の部屋を、後にした。
『昨日未明、〇〇市の山中で女性の遺体が発見されました。昨年末に東京都で発見された複数の遺体と損壊の状況に類似性があり、警察は同一犯の可能性を視野に入れ、捜査を続けています。
次は、交通情報です――』
オシマイ
可愛すぎる隣人が毎晩試作品のカレーを差し入れてくれるだけのラブコメ 干野ワニ @wani_san
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