覚悟の時
お昼を食べ終わっても尚、フードコートは人で溢れかえっていた。
椅子と机が沢山並んだ空間でとなれば、どうにも居心地が悪くなる。ただの人混みとは格が違う圧迫感が出てくるからだ。
食器を載せたお盆を店に返すやいなや、その空間からの脱出を試み、途中年端も行かない少女とぶつかりそうになりながらもなんとか成功する。
フードコートから出れば、相変わらず人の流れは出来ているが、一息つける程度の物だった。
「何から見る?」
「近くの店から全部見てく? 私は買い物出来たし芹沢も何か買いなよ」
「確かに、何でもありそうだしな」
基本的に何かが必要になれば、ここに来れば問題ないのだろう。
ネットで買えばいいという風潮が流れている現代だが、実際に商品を見てから買うのも一興というものだ。
午前中は服屋を見つけることに集中していたため、花蓮の提案を受け入れ、ゆっくりとお店を見ていくことにした。
パステルカラーがふんだんに使われ、目を引っ張られてしまう女児向けと思われるお店や店名が見えないほど蛍光色のライトで照らされた雑貨屋。更には、眼鏡やプラモデル、靴の専門店など多種多様な店が目に写っていく。
眼鏡屋の前を通ると、花蓮が待ってましたとばかりに、気に入った眼鏡を試しにかけ始める。
昔かけていた伊達眼鏡とは全然違うデザインだが、やっぱり似合うなと思わされた。
少し昔に戻った感じを味わっていると、眼鏡に飽きた花蓮が別の店に早足で向かっていくので慌てて追いかけた。
その後も、専門店がしばらく続いていく。
専門店特有の同じような商品がずらっと並んでいる光景は爽快感があると常々思う。
もっとも仏壇の専門店は不気味さを感じるのを禁じざるを得なかったが。
本屋の前を通ると、吸い込まれるように体が勝手に入ってしまった。
好きな漫画の発売日は大抵把握してその日に買いに行くので、お目当ての物が特にある訳では無いがそれでもだ。
「わ、待ってよー」
「――あ、悪い悪い」
周りを見ながら歩いていたのであろう花蓮は、人にぶつかりそうになりながら慌てて追いかけてきた。
今の時代スマホがあるから問題ないが、きっとこうやって幼い頃は迷子になっていたのだろう。
「買いたい漫画なんて無いのに、何となく店内見ちゃう時ないか?」
「あるある! 私の場合、そういう時に買いたくなる本見つかったりよくするし」
品物の数で言えば、本屋は圧倒的に他の物を取り扱う店よりも優れている。
それゆえの店内の密度の高さみたいな物が優は好きだった。
今日まだ何も買っていない事に今更ながら気がついたので、春樹が推していた漫画を購入するため手に取る。
そこで後ろを振り返ると、両手に二冊ずつ漫画を持った花蓮の姿があった。
店内で特に立ち止まった箇所もなければ、呼び止められもしていないのにこの状態になれるのは最早才能と呼べるのではないか。
「いつ四冊も取った? というか出費大丈夫か?」
「出費はまずいけど、読んでる漫画の続きがいつの間にか出てたんだもん!」
「――あ、それ! 新しく読んでみたいって思ってたやつだ。 読ませて!」
優が次の言葉を紡ぐ前に、優が持っている物に目をつけた花蓮が続けて言う。
「――おう、もちろんいいよ」
「やったー! 私のやつも読ませてあげる」
花蓮も読みたいならと思い、追加で二巻も手に取った。
春樹の熱量と花蓮のセンサーからして、きっと買って間違いが無いものなのだろう。
何となく漫画の棚以外も一通り見ていき、参考書の棚の所で数学の参考書を花蓮のアドバイスを聞きながら選ぶ。
しかし、花蓮が英語の参考書を選ぶことは無かった。花蓮がしてくれたように選ぶのを手伝おうかと思ったが、お金が足りないの一点張り。
英語に対してやる気が出ないから買っても無駄だというのが本音なのは容易に分かるが追及せずに会計に向かうことにする。
お互いに本屋に行ったにしては少し大きめの金額を払い、店を出た。
そこでずっと考えていた事を花蓮に伝えようと声をかけた。
「どうしたの?」
「――二人で自炊をしないか?」
そして、二人で自炊することで食材の消費が簡単だったり、料理にかかる労力も減るのではないかということをこれまでにないくらい真剣に語る。
何よりも食費が抑えられる。外食の方が多くなっている現状は流石に良くないだろう。
「――うん、そうだね……」
苦虫を噛み潰したような顔で重たい返事をする花蓮。
不器用な訳では決してないが、花蓮の面倒な事リストに自炊もしっかりと載っていたらしい。
「自炊は面倒だけどさ、日常的にカップ麺とかで1食を済ませるのはもっと嫌じゃない?」
「私もうちょっと手がかかった物食べたい。二人でやるんだし、頑張ってみよっか。」
こうして、食料品売り場の方へ足を向けるのだった。
嘘つきは青春の始まり 月雪奏汰 @yuki-0808
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