外食(n回目)
店から出ると、店に入る前には所々で行われていた買い物客による行進がピタリと止んでいる事に気がついた。
視界に勝手に入ってくる程の存在感を持った電光掲示板を見れば、丁度お昼ご飯の時間であり、その影響であろうことが分かる。
現在人の数が減っていることから考えても、今から並ぶ場合、店によってはかなりの時間を無為に過ごす事になるだろう。
ご飯を食べる時間をずらすことで待ち時間をできる限り減らそうと考える人が一定数いるのだから、ごく稀に本来混むべき時に空いている場合があってもおかしくないと個人的には思う。
しかし、物心ついてから十年以上の時を経てもそんな感動の場面に出会った試しがないということは、そういうことなのだろう。
もし、一生に一度くらいの確率でそんな状況に出くわすのなら、そのときは判断が早計だったと認めよう。
話が脱線してしまったが、要はこの後何をするべきなのかが分からないのだ。
「なぁ、この後どうする?」
「――え、んーそうだなぁ」
バッと紙袋の口を閉じた花蓮は、顎に手を当てて唸って見せた。いや、いくらなんでも無理があるだろ。服が見たかったのなら仕方ない。思わず先程の店員さんに向けられたような目を花蓮に向けてしまった。
「ほら、丁度お昼の時間だろ?」
「うん、人だいぶ減ってるしね。けど、外食最近多くてなぁ」
「うん、それはそうなんだよなぁ……」
花蓮の言うことはもっともで、とても重たい同意をせざるを得なかった。
花蓮と出会った日から毎日のように外食。食べるものは毎回違うが、外食をするという行動に飽きたとでも言えばいいのだろうか。
それにいい加減に節制しないと、いくら多めに貰っているとは言え食費が尽きることになる。
とはいえ、このショッピングモール内でお昼を済ませる事は必須だ。何故かと言えば、花蓮のお腹が鳴っている音が二回ほど既に聞こえているから。
それに、多少遠いショッピングモールに来たのだし、ここで帰ってしまうのが勿体ないというのもある。
「うどんにするか……?」
「うどんにしとく……?」
導き出された答えは両者同じだった。
うどん屋はフードコートの一角にあるため、フードコートに行き、どこぞの恋愛評論家には怒られそうだが、空いてる席を見つけるために二人でキョロキョロ。
丁度席を立つ所だった初老と思われる女性に花蓮が声をかけられ、席の確保が完了する。
「うどんにするか……?」などと、疑問形で言ったが、決してうどんを軽視している訳では無い。
ショッピングモールには、フードコート以外の場所にもご飯屋さんが沢山ある。しかし、フードコートに入っていない事から分かるようにそれらの店は多くの場合割高だ。
うどん屋の場合八百円程度出せば、うどんを大盛りにして天ぷらを付けることができるだろう。
それに対して千六百円程度で何が食べられるかと言えば、トンカツやハンバーグが注文出来るというところだろう。もっとかかる事もあるが。
どちらでも満腹度は同じくらい。
つまり、値段を二倍にして、満足度が二倍になるかどうかが焦点となる。
うどんを毎日食べているとかであれば、満足度は二倍になるだろうが、そうでは無いなら二倍とまでは行かないのではないだろうか。
だからこそ、安くて美味しいうどんは節制の味方だ。
うどん屋の列に並びながら、脳内で誰に向けてか分からない熱弁を繰り広げていると、二人の順番が回ってきた。
優は、何もトッピングを付けないうどんを大盛りにして、そこに野菜かき揚げと鶏肉の天ぷらをつけて、なんと八百八十円。
花蓮は、温泉卵ととろろをトッピングしたうどんに鶏肉の天ぷらを選んでいた。
温泉卵ととろろの組み合わせも最強だが、そこに鶏肉の天ぷらを加えるあたり、花蓮はよく分かっていると謎の目線から関心してしまった。
会計を各自で済ませて、席に戻り食べ始める……前にかき揚げを半分花蓮にあげた。
「え、いいの?!」
「うん、席見つけてくれたお礼みたいなもんだ。」
「そう? ありがと!」
本当の事を言えば、かき揚げと鶏肉の天ぷらで長い間迷っている様子を見てしまったからだが、それは心の内にしまっておく。
鈴を転がすような声で嬉しそうにお礼を言われれば当然悪い気はしない。
顔を輝かせる花蓮を見た後、心なしかいつもより更に美味しいうどんに舌鼓を打つのだった。
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