第20話
そこには静けさと、刺すような視線だけが残った。人々はあばら家に籠り、息を潜めて怪しげな二人を見つめる。
「行きましょう。ここではわたくしたちは歓迎されないもの」
銀はまた、鈴を担ぎ闇の中へと向かった。里の灯りが届かなくなると漆黒の世界が広がった。月明かりさえもない夜だから、鈴にはほとんど周りが見えない。
「行くあてはあるの?」
不安になり聞いてみた。
「この少し先に山がある。そこにひとまず身を寄せようと思う。我の知っている者がおる。
銀の知っている者とはやはり鬼なのだろう。自分は鬼とのつながりが濃いのかもしれない。血に引き寄せられているのだと感じた。
銀の言う少し先とは、鈴が思ったよりも遠かった。東の空が白んでくる頃、目指す山が陽の中に浮かび上がってきた。
「あの山ね?」
鈴は重い瞼を開けてその山を見つめた。肩に担がれたまま眠っていたようだ。
「銀、あなたずっと走っていたの?」
「そうだ」
山が見えてから間もなく、麓へたどり着いた。銀はそこで一度立ち止まり、
「おん婆がこの辺りでは一番恐ろしい。覚悟しておけ。お前からはやはり人の臭いがする。鬼の血を引いているとは我には分からなかった。だが、おん婆になら分かるはず。お前を気に入れば何とかしてくれるだろう」
いよいよ山へ入る。初めて入る山なのに懐かしい匂いがするのはなぜだろう? 邪気に満ちているからかもしれない。鬼の血を自分でも感じ始めている。ドキドキと鼓動が唸るように打つ。小鬼の気配もさほど嫌な気はしない。山の頂上に近付くにつれ、邪気は増し、それと反比例するように小鬼の数は減っていった。
「周りの様子がおかしい。小鬼が一匹もいない。どうしたのだろう?」
鈴の不安は増していた。
「この上におん婆がおるからな。近づく奴は食われちまう。だれも餌になどなりたくないのだ」
それを聞くと不安が恐怖へと変わっていく。鬼を食う鬼。恐れられるわけだ。
「銀も食われてしまうということはないの?」
食われてしまったら、来た意味がない。
「あるいはそうなるかもしれない。それもお前次第だ」
自分に運命を委ねられた鈴は、どうにも落ち着かなかった。鬼というのはどうして命の駆け引きが簡単にできてしまうのだろう?
「あれがおん婆の庵だ。ここから歩く」
そう言って、鈴を肩から降ろし、並んで歩いた。その質素な小屋の戸口から、腰の曲がった小さな老婆が姿を現した。
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