第15話
銀以外の鬼は、やはりただのけだもの。人の匂いを嗅ぎつけたのか、右も左も、そして後ろにも、すでに邪気が感じられた。
山の中腹まで下りたところで、小休止を取ることにした。いくら鬼討ちといえども、走りながら刀を振り続け、餓鬼を倒していくのは至難の業。体力の消耗もかなりのもの。邪気の数は先ほどより少ないが、葉陰で鈴の様子を窺っている。
「愚かな。それで隠れているつもりか?」
鈴は少し息を整えるため、地べたに腰を下ろした。邪気の中には、それと違う気が混じっていた。
「龍、お前の相手などするつもりはない。ついて来てどうするつもりだ?」
鈴は
「やはり気付いていましたか。あなたは普通の人ではないようです。幼い頃から人を超越したものを感じていました。源之助の娘にしても度が過ぎている。あの男も人並み外れた腕を持っていたが、私から言わせれば、あれは人の力量の範囲内。だが、あなたは違う。人とは違う何かの血を受け継いでいるのではないのですか?」
龍はそう言って、鈴の前に腰を下ろすと、話しを続けた。
「あなたは母君のことをよく知らない。そうですね? 彼女はあなたが生まれてすぐに亡くなった。それは聞いているのでしょう? 私はね、あなたの出生に秘密があるのではないかと考えているのですよ。あなたも感じたことはありませんでしたか? 先ほどのように鬼に追われながら刀を振ることも、人であらぬ証拠。鬼の足の速さはご存じでしょう。源之助でさえ、追いつくのがやっとです。それをあなたは軽く超えています」
龍は口元に微かな笑みを浮かべてながら話す。そこがこの奇妙な男を、いっそう奇怪なものに見せていた。
「何を申すかと思えば、そのような
そう言いながらも、鈴は龍の考えが間違いでないような気にもなっていた。そう思いたくはないが、つじつまを合わせていけば、龍が正しいのかもしれなかった。
「わたくしに用とはその事だけか? ならば、この醜悪な小鬼どもを連れて消えてくれまいか?」
これ以上この男の話しを聞くのは、今の鈴には酷な事であった。知らない方がよいこともある。
「私に会いに、この山へ入ったのではないのですか? それとも、銀の鬼に会いに来たのですか?」
「どうでもよいことであろう」
鈴は心の揺らぎを押え、冷たく言い放った。
鈴は周囲の邪気の動きを見ながら立ち上がり、龍との会話を断ち切った。そして、無言のまま山を下った。龍はそれを黙って見送る。餓鬼たちはもう鈴を追ってはいなかった。
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