第11話
昼を過ぎた頃、身支度をして、
「馬鹿め」
鈴は一度に数匹の鬼に飛び掛かられたが、それらをすべて一本の刀で斬り裂き、なぎ払い、討ち捨てた。そこはやはり鬼夜叉の娘である。
遠巻きに見ていた残りの鬼どもは敵わぬ相手と知り、無様にも逃げていった。
「なんだ。もう終わりか?」
無闇に山に入ったが、龍の居場所など見当もつかなかった。しばらくは深まる木々の闇の中を進んだ。鬼の気配はそこら中にあって、鈴の様子を窺っているようだ。
鈴も周りの気に注意を向けた。ザザーッ。突然鬼たちが動きを見せた。鈴に向かってきたのではない。下方で何かあったのか、そちらへ向かって走り出した。
「何だというのだ」
獲物がここにいるというのに、わざわざ逃すほどのことがあったのだろうかと感じた鈴は、鬼らのあとを追った。
鈴の足は下等な鬼どもなどとは比べものにならないほど速い。あっという間に鬼らを追い抜き先頭に着いた。そして、ことの事態を飲み込んだ。山には火が放たれていた。木々の燃える焦げた臭いが立ち込め、若葉が燃えて白い煙がモウモウと辺りを包んでいた。炎が揺れてその先に見えたものは、
「まさか。このようなことまで……」
そうとは思いたくはなかった。鬼退治のために山へ火をつけるなど。鈴は炎の切れ目を見極めて、そこを走り抜けた。
「鈴!」
そう叫んだのは正尚だった。炎の壁から突然姿を現した鈴への驚きと疑惑の念を隠さずにいる。
「お前は……。なぜここにいる?」
正尚にはもっと聞きたいことがあった。けれど、これ以上のことを口にすることは出来なかったのだ。
「それは、わたくしも聞きたい。ここで何をしているのだ? まさか、火を放ったのはお前たちなのか?」
鈴は違うと言ってほしかった。
「そうだ。よく燃えているだろう。奴らを根絶やしにするには、この方法しか考えられなかったのだ。もうこれ以上、犠牲は出したくないからな」
正尚はそれが正しいと考えているようだが、鈴には納得できなかった。
「この山に棲むものは鬼だけではないのだぞ。お前たち、何をぼやぼやしておる。早くこの火を消さぬか!」
鈴は若い鬼討ちらに命令した。
「鈴さん、すみません。これは頭領の指示ですから。あなたの言うことは聞けません」
鬼討ちらはもうすでに、正尚を頭として他の誰の指示も受け付けようとはしなかった。
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