第5話
屋敷へ戻ると、何やら不穏な空気を感じ取った。若い衆が慌し気に走り回っている。原因は龍という男に違いない。
「何事です!」
「お頭の姿が見えないのです。客人も消えてしまわれた」
若い鬼討ちは落ち着きがなく、慌てている様子であった。
「父はわたくしが探します。客人は探さなくともよい。あれは鬼。人の姿をしているが鬼に心を食われているのです。山へ帰って行ったのでしょう。しかし、また里へ下りてくるやもしれぬ。用心なさい」
「鈴さん。なぜそのようにお詳しいのです? 何があったのですか?」
鬼討ちは鈴の言葉で、少し平常心を取り戻したよう。
「あれは、わたくしを惑わそうと企んでおりました。鬼と共に山で暮らしているとも言っていました。ところでお前たち、鬼狩りをするというのは本当か? やめたほうがよいと忠告していきましたよ。あの男は」
鈴の知らないところで、このような企ては気に入らない事であった。この若い鬼討ちに言っても仕方がないが、そうしなければ気が済まなかったのだ。
「私はその……」
若い鬼討ちは言葉を濁した。
「お前に聞くことでもなかった。詳しい事は若頭領に聞く。もう行ってよい」
その言葉を待っていたのだろう。鬼討ちははじけるように走り去った。
「
鈴は悔しくて仕方がなかった。幼馴染であった正尚が父の跡を継いだことも、自分に何の相談もない事も。
騒動は収まりつつあった。源之助も無事見つかり、皆が安堵していた。しかし、龍が友人である源之助を縛り上げ、蔵に閉じ込めていたとは。鈴の怒りはこれまでにないほどのものであった。
「正尚。わたくしがあなたを呼び出した理由は分かっているのだろう?」
鈴は歳の同じ正尚に対しては、いつもこのように対等な態度を取っていた。正尚が頭領になってからも、それは変わることはなかった。
「鬼狩りのことだろう。お前に言う必要などない。連れても行かぬぞ」
「何を!」
つい怒りを露わにしたが、冷静さを取り戻し、
「そのような事、父とて許しはしまい」
と返したが、
「お頭はすでにご存知だ。承知はしなかったが、今の頭領はこの僕。決めるのは僕だ」
「鬼狩りなどやめなさい。これは忠告ではない。命令だ」
鈴の目はいつになく厳しく、まさに鬼討ち、いや、二代目の鬼夜叉そのものだった。その気迫に若頭領である正尚は負けていた。
「お前が何と言おうと無理な話しだ。いいか、鬼なんていうものがあの山にいる限り、僕たちに安住の地は存在しない。
「正尚、鬼狩りの日取りは決まっているのか?」
「いや、まだその用意ができていない。ひと月先か、ふた月先かまだ分からぬ」
鈴にはそれが嘘だと分かっていた。正尚とは長い付き合いなのだから。
「では、その話し、これから先は、わたくしに必ず通すように。分かりましたね。隠し通せるものものでないことは、あなたがよくご存知でしょう」
少々困ったうな顔で、正尚は頷いた。これが彼らの関係性をよく表していた。
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