第33話 夢幻の魔法
「……緊張してます?」
「あーやっぱり分かるよね……」
魔力枯渇のための魔力回復薬や、何かあった時のための魔道具など、準備は完璧にしたはずだったが、やはり初めてのこととなると、自然と緊張してしまうものだ。実際、今回は人に対して時空魔法を直接使うのだから。
「お二人とも、本日はどうかよろしくお願いいたします」
姫騎士シェリアの付き人であるリタが、部屋の前で挨拶をしてくれた。前日は綺麗に全て下ろしていた橙色の髪を、後ろで一つに結び、普段着や戦闘着などとは思えない魔導装束を身に纏っている。
「私も魔力には少々自信がありますので、微力ではありますが、お力添えさせてください。もし何かあれば私の魔力を全て使っていただいても、構いません」
その目からは決意の表れが読み取れた。それに、彼女が放つ魔力はハルほどではないが、かなり強力なものであると感じ取ることもできた。
おそらくシェリアが今まで持ち堪えられていたのは、彼女の力が大きかったのかもしれない。
「ありがとうございます。では、取り掛かりましょうか」
ハルの一言で俺たちは部屋に入り、ひとまずリタにこれから行うことの説明をした。
「…………そんなことが可能なのですか??……というか……それが出来る貴方たちは……一体何者なのですか??」
「まぁそういう反応になるよね……」
俺たちの説明に、やはり彼女は驚くほかなかった。そもそもこの魔法自体が秘匿なものであるのだから、仕方のないことだけども……。
「ですから、絶対にこのことについては口外しないでくださいね?」
「はい、分かっています」
ハルが念入りに口外しないよう釘を刺す。もしこんなところでこの魔法と俺たちの存在が広まってしまえば、瞬く間に情報は広まり、あの教団たちにもすぐ伝わってしまうだろう。
「あと、ガルアさんは魔力量が一般人より少ないので、私が指示をしたら、リタさんも魔力供給をお願いします」
「そ……そうなんですね……」
ちょっと憐れむような顔を向けられたが、気にしない……。俺はこんな所で気にしてはいけない……集中しなければ……。
大きく息を吸い、体内の魔力の循環を早める。そして、生命維持のための最低限の魔力を残して、それ以外を魔法を行使する両手に集めていく。
途中で魔力が切れそうになっても、二人が待機していてくれるという安心感か、今日はとても身体の調子が良かった。
「では、始めます」
静寂の中、リタが緊張のせいかゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。ハルがいつでも大丈夫ですと言わんばかりに、体内の魔力を練っているほんの僅かな音が聞こえる。そして自分の心臓の鼓動が、いつにも増して大きく聞こえた。
大丈夫だ。いつも以上に集中できている。
俺はシェリアの身体にそっと両手を当て、魔法を発動する。
「『
かつて魔法都市で見つけた本に書かれていた魔法。それは、使用された人物の時間を巻き戻すといった驚愕の魔法だった。どういう原理かまでは、本を読んだだけでは分からなかった。けれども、俺はこの魔法に無限の可能性を感じ、少ない時間でなんとかモノにすることができた……はず。
……まずい。一瞬で体内の魔力が魔法に吸い尽くされていくように感じ、俺はほんの一瞬、合図となる目線をハルに送る。
両腕の感覚がなくなり、頭がガンガン痛みだし、意識が朦朧とし始める。
魔力枯渇が近い。
「頑張ってください!!」
だが事前の打ち合わせ通り、俺の合図に反応して彼女が俺の腕をそっと握り、魔力の供給を行ってくれた。そのおかげで、どうにか俺の身体は安定を取り戻すことに成功する。
だがもう少し、足りない。ハルの送ってくれている魔力では徐々に足りなくなって来ている。それだけ、この魔法は膨大な魔力を必要とするようだ。まるで魔法が自我を持ち、俺の身体を全て吸い尽くすかのごとく、ごっそりと魔力を持っていかれる。…………根性を見せなければ……。そう思っているところにリタがそっと手を添えてくれた。
「お力になります……!!どうか!!」
リタの優しく、願いのこもった魔力が力を貸してくれているのが分かり、俺は再度魔力を入れ直す。
こんなところで負けるわけにはいかない。何がなんでも、シェリアを助けるのだと、誓った。
腕ぐらい後で何とでもなる。くれてやる。だから……俺の思い通りに……なってくれ!!!
────ここが踏ん張りどころだッ!!
最後の一押しと言わんばかりに、意識が朦朧とする中、全身全霊で魔力を込め、ついに魔法の完全発動に成功……した。
姫騎士シェリアの体を眩い光が包む。その瞬間は、成功したのかどうか判断がつかなかった。
だが光が収まると、そこには、既に禍々しい角は、見当たらなかった。
そしてシェリアは、ゆっくりと目を、開けた。
魔力量は人並み以下だけど最強の時空魔法を習得したので運命に抗ってみます 神白ジュン @kamisiroj
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