第32話 希望の魔法

 「……分かりました。ですが、この大勢の前で、やる気なのですか?」

 

 「それは考えたんだけど、もし仮に、付き人であるリタさんだけ残ってもらう形とかなら、みんな納得してもらえるんじゃないかなと思って」

 

 「……なるほど。ガルアさんの考えは分かりました。少しでも可能性があるのであれば、私は賛成します。ひとまず、私からシェリアさんの容体について、説明しますね」


 俺よりも魔法に精通している彼女の賛成を得られたことで、俺はある可能性に賭けてみることにした。

 それは、使だった。現状、回復の見込みが薄い姫騎士シェリアの身体を、傷つく前の身体に戻すことさえできれば、もしやと思ったからだ。

 だが、実際俺は直接人に使ったこともないし、反応から見てハルも身体を治す目的で使ったことはおそらくないだろう。

 

 まぁともかくは、方々の了承を得なければならないが。



 ハルが俯きながら悲しげに話し出した。

 「皆さん、申し訳ありません。私が手を尽くした限りでは、やはりシェリアさんの身体を治し切ることは不可能です……。刺さった角の影響でしょう、彼女は呪いを受けていて、いつその命が尽きたとしても不思議ではありません……。私がこれ以上手を尽くしても、数日の延命措置になるかどうか……」


 「そんな!!う……そ……」

 付き人でるリタはハルの言葉に我慢できず、再び涙を流してしまった。


 町長や他の人々も、それぞれが悔恨や悲愴の表情を浮かべている。


 「嫌です!嫌です!!シェリア様!!!そんな……私を……皆を……置いていかないでください!」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、祈るような声でリタはシェリアのか細い手を再び握る。


 

 場の雰囲気が想像以上に最悪になってしまったが、ここしかないと思い、俺はある可能性の話を切り出す。


 「一つ……俺が試してみたい魔法があります。もしそれで助かる可能性がほんの少しでもあるとしたら……魔法の使用に納得していただけますか?」

 俺は皆々にしっかりとした声と面持ちで告げた。


 反応はやはりというか、信じられないといった目を丸くした表情で、方々から見つめられた。



 「なんと……まだ隠し玉があったとは……私としては可能性が少しでもあるのであれば、勿体ぶらず使っていただければ良かったのですが……して、それはいかほどの魔法で??」

 町長は興味深くこちらに聞いてくる。


 「……申し訳ありません。この魔法は……あまり他人に無闇矢鱈と知られたくないのです。ですから、ここまで黙っておりました。それに、私は旅の者ですし、信用信頼の問題もありますので」


 申し訳なさそうにそう告げると、町長始め皆々はしょんぼりとしてしまった。一人を除いて。

 

 すると、先程から口を閉じていたリタが口を開いた。

 「お願いします旅のお方……。ほんの僅かでも、シェリア様が助かる可能性があるのであれば……私は……その可能性に賭けさせていただきたいです!」

 純粋で真っ直ぐな目で俺はそう言われた。それは思わず彼女の瞳に魅入ってしまうほど。

 


 少々言葉を失っている間に、ハルが続ける

 「では、皆さんはしばらくの間、部屋の外に出ていただきます。私とガルアさんで、シェリアさんの命を、完全に預からせていただくことを、ご容赦ください。そしてリタさん……もし貴女が少しでも何処の馬の骨とも知らない旅の人間に何されるやら心配なのであれば、同行していただいて構いません。魔法について絶対に口外しない、と約束していただけるのであればですが」


 「……分かりました。私の命に誓っても、口外しないと約束します。ですからどうか……私の大事な人を……お願いいたします」


 「分かりました。では今日は遅いですから、明日、実行することにします。……今晩は問題ないと思いますが、どうかお側にいてあげてください」



 全ては決まった。明日、俺たちは姫騎士シェリアを治すと誓った。

 

 

 

 


 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る